最新記事

ヨルダン

世界にスルーされた「ベルリン、トルコ以外」のテロ

2016年12月21日(水)21時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Muhammad Hamed-REUTERS

<ベルリンとトルコで2件のテロが起きた日の前日、ヨルダンでもテロ事件が起こっていた> (ヨルダン中部カラクの事件現場、12月21日)

 12月19日、ドイツの首都ベルリンでクリスマス市に暴走したトラックが突っ込み、12人が死亡した。奇しくも同じ日、トルコの首都アンカラではトルコの警察官がロシアの駐トルコ大使を銃殺。背景こそ異なるが、こちらも政治的な目的のために暴力を行使するテロリズムである。

 ベルリンの事件はその手法から、7月に南フランスのニースで起きたトラック・テロを想起させ、世界中を震撼させている。トルコの事件にしても、殺害の瞬間の写真や動画が出回り、ショッキングなニュースとして広く報じられた。

【参考記事】ベルリン、トラック突入テロ「トラックは止まろうとしなかった」
【参考記事】ロシアの駐トルコ大使殺害で懸念される5つの衝突コース

 だが、テロはこの2件だけではなかった。

 ヨルダン中部のカラクで18日、観光名所の城が武装集団に襲撃され、カナダ人観光客1人を含む10人が死亡、34人が負傷した。AFPによれば、4人組の武装集団がパトロール中の警察官を銃撃した末、城塞内に立てこもったようだ。治安部隊が城を包囲し、数時間後、テロリスト4人を殺害したとヨルダン当局は発表している。

 このテロ事件に関しては、過激派組織ISIS(自称イスラム国)が20日に犯行声明を出し、ヨルダンの「背教的な」治安部隊やアメリカ主導の有志連合の市民らを標的にしたと主張。同じ20日、武装集団と警察との新たな銃撃戦が発生し、警察官がさらに4人死亡している。

 しかし、このヨルダン・テロはほとんど報じられなかった。あの時と同じだ。

 2015年11月13日、フランスの首都パリで同時多発テロが発生、約130人が死亡した。その前日、レバノンの首都ベイルートで連続自爆テロが起き、こちらは43人が死亡している。

 パリのテロ事件後、ベイルート・テロに関する報道は激減し、さらには名所旧跡をフランス国旗の3色(トリコロール)にライトアップしたり、個人がフェイスブックのプロフィール画像をトリコロールにしたりと、フランスへの連帯を示す行動が各国に広がった一方、同様の"連帯"はレバノンには向けられなかった。

 当時のCNNの記事には、あるレバノン人医師のブログがこう引用されている。「(私たちの)死は国際ニュースの中のどうでもいい1つの断片にすぎず、世界のどこかで起きた出来事にすぎなかった」

 5年超に及んだシリア内戦は、「戦後最悪の人道危機」などと報じられつつも、国際社会は効果的な手を打つことができず、ロシアの支援するシリア政権軍が反体制派の拠点アレッポ東部を陥落させる結果となった。内戦の死者は25万人とも47万人ともいわれる。そして、このアレッポ陥落が「これから起きるさらなるテロの前触れとなる可能性が高い」と、外交問題評議会会長のリチャード・ハースは予測しているのだ(参考:昨日起こったテロすべての源流はアレッポにある)。

 難民危機の例にもれず、世界はつながっている。目前で起きたことだけに注意を払っている場合ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国中銀、政策金利2.50%に据え置き 予想通り

ビジネス

英も「貯蓄から投資へ」、非課税預金型口座の上限額引

ワールド

来年のG20サミット、南ア招待しないとトランプ氏 

ビジネス

米ホワイトハウス付近で銃撃、州兵2人重体 当局はテ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中