最新記事

ロシア

プーチン年次教書「世界の中心で影響力」を発揮する

2016年12月2日(金)18時20分
エミリー・タムキン

12月1日、連邦議会で演説するプーチン Maxim Shemetov-REUTERS

<原油安と西側からの経済制裁に苦しんでいるかと思いきや、全体には自信に満ち、中印米などとの関係改善をテコに世界を率いる気満々だ>

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は1日、クレムリンの連邦議会に向けた年次教書演説を行った。プーチンに言わせると、ロシアにとって万事が上手くいっている。

 演説の冒頭で、ロシア国民は問題解決に向けて共に取り組めると強調し、問題が完全になくならなくても「力を合わせればきっと乗り越えられる」と力説。

 そのうえで、国際社会におけるロシアの公正さや尊厳、信頼性は形に表れてきており、それらをロシア国内でも、社会に広がる不正や不誠実に立ち向かうなどして実行に移さなければならないと訴えた。社会は強く、安全な場所でなければならないとも主張した。

【参考記事】ロシアの最新型原潜、極東に配備

 プーチンの言う通りだ。例えば医療分野。ロシアの医療業界は技術が進歩し、今や至る所で医療施設がオープンしている。来年は、先進医療に対する持続可能な財政負担を実現するための新たな仕組みを導入する。

先端科学とエセ科学

 一方、ロシアで現在HIV(エイズウィルス)に感染している患者数は約150万人。感染率は1年で10~15%も上昇した。ところがロシア政府は国内患者の治療につながる科学的根拠に基づくエイズ治療法を拒否している。クレムリンは、科学を否定する「ニセ科学」を表彰さえする始末だ。

 子どもの教育も大事だ。子どもは快適に暮らし、良い学校で教育を受けなければならない。プーチンは、ロシアの学校は改善を積み重ね、今までで最高水準になったと言った。

 だが英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの2015~16年の大学ランキングによると、ロシアの最高順位は161位のロモノーソフ・モスクワ国立大学だ。

【参考記事】プーチンが築く「暴君の劇場」

 母なる大地は? ロシアは2017年を環境元年と位置づけ、プーチンは西部を流れるヴォルガ川や南東部のバイカル湖など、重要な自然遺産を保護するよう政府内で指示した。

 世界銀行によると、ヴォルガ川の支流の一部で「ひどい汚染」が確認され、その他の流域はそれ以上に「極端に汚染」されているという。今年は、水質汚染で繁殖したとみられる大量の藻がバイカル湖を侵略した。

【参考記事】復活したロシアの軍事力──2015年に進んだロシア軍の近代化とその今後を占う

 ウクライナのクリミア半島を併合したとして国際社会がロシアに経済制裁を科してきたのは、「無論彼らがロシアを自分たちの思惑通りにしたい」からだとプーチンは言った。だが一連の問題はロシア自身で解決できる。それにロシアの銀行制度はあらゆるレベルで健全かつ安全でなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

チリ大統領選で右派カスト氏勝利、不法移民追放など掲

ビジネス

インタビュー:海外投資の過半を米国に、国際的なガス

ワールド

イスラエル首相、反ユダヤ主義助長と豪首相を非難 ビ

ビジネス

インタビュー:プライベートデット拡大へ運用会社買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中