最新記事

米外交

ロシア通の石油メジャーCEOがトランプの国務長官になったら外交止まる?

2016年12月12日(月)18時08分
ロビー・グレイマー、エミリー・タムキン

エリツィン元大統領の時代からロシアと親密だったティラーソン Daniel Kramer-REUTERS

<難航していたトランプの国務長官選びで、ある意味凄い候補者が浮上した。世界最大の石油メジャー、エクソンモービルのCEOで、プーチンとは北極海での歴史的な合弁事業に合意した実績をもつロシア通。彼が国務長官になると、世界はよくなるのか、悪くなるのか>

 迷走していたドナルド・トランプ次期大統領の国務長官選びが、やっと決着したようだ。米石油大手エクソンモービルのレックス・ティラーソンCEO(最高経営責任者)がトランプ政権の外交を担う最有力候補に浮上したと、政権移行チームに近い人物が明かした。

 ティラーソンは上場する世界最大級の石油メジャーで10年にわたりCEOを務めてきたとはいえ、公共政策や外交ではまったくの素人だ。ただし、ロシア絡みの経験は豊富だ。

 ロシアで着々とエクソンの権益を拡大してきたティラーソンは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と親密な仲であることも知られている。2人の交流はロシアでボリス・エリツィンが大統領だった時代から続いている。ティラーソンは11年、ロシアの国営石油会社ロスネフチと歴史的な合弁事業の合意にこぎつけた。それによりロシア北部の北極海の資源開発へのアクセスを獲得したエクソンは、見返りに同社が開発を進める油田などの一部権益を取得する権利をロスネフチに与えた。その合意は、14年に始まった米政府の対ロ制裁の影響で停止に追い込まれた。

ロシアと親しすぎる

 ティラーソンはかねてから、ウクライナ問題を発端にアメリカやEUがロシアに科してきた経済制裁に反対の立場を表明していた。13年にはプーチンの大統領令で、ロシア政府が外国人に授与する最高の賞に値する「友情賞」を受賞した。

【参考記事】トランプの首席戦略官バノンは右翼の女性差別主義者

 ただでさえ、トランプ自身のビジネスとの利益相反の問題や、CIAがロシアはトランプを勝たせる目的で米大統領選に介入したと結論付けるなど混乱が続いているが、その最中にティラーソンが候補に浮上した。石油ビジネスと対ロシア外交との利益相反やロシアとの親密さそのものが、問題になるのは必至だ。

【参考記事】オルト・ライト(オルタナ右翼)とは何者か

 ティラーソンはこれまでアメリカの外交政策について目立った発言をしてこなかったが、過去の発言から、いくつか重要な意見の相違もある。ティラーソンは地球温暖化を信じており、20年からの温暖化対策の国際ルールを定めた「パリ協定」の批准を支持した。一方のトランプは地球温暖化を否定し、パリ協定からの離脱を示唆している。

【参考記事】トランプ政権の国防を担うクールな荒くれ者

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米高官、中国と北朝鮮巡り協議 強制送還への懸念表明

ワールド

トランプ氏、石油業界幹部に環境規制破棄を明言 10

ビジネス

英中銀、近いうちに利下げとの自信高まる=ピル氏

ワールド

ロシア軍の侵攻阻止可能、同盟国の武器供給拡大で=ウ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 3

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 4

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 5

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「高齢者は粗食にしたほうがよい」は大間違い、肉を…

  • 10

    総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 9

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中