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全米一の「しくじり先生」が書いた不幸への対処法

2016年11月22日(火)18時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 そんな彼が真っ向から否定しているのが、アファメーション(ポジティブな自己宣言)だ。「私は人に好かれている」と自分に言い聞かせていれば、自然と自信がついてそういう人物になれるとか、もっと簡単な例を挙げると、笑顔を作ると気分が明るくなる、というのもある。

 バロウズは、これを「ウソっぱち」と斬り捨てている。「自分に対する裏切り行為」だと。なぜなら、気分を上向きにしたいのであれば、重要なのは「何より上向きにしたいか」を認識することだからだ。そして、その答えは「いまより」であるはず。つまり、いまがネガティブな状態であること(自分は人に好かれていない)を自覚してはじめて、そこから上向きになる道を見いだせるのだ。

 ネガティブな面に背を向けず、堂々とそれを受け入れろ。そのほうがずっと気分が楽になるし、「じゃあ、どうしようか」と考える気にもなる。なあ、そう思わないか?――これがバロウズ流だ。

経験者の言葉ほど価値のある教訓はない

 世の自己啓発書の真逆をいく、という点以外にも、この本にはバロウズならではの特徴がある。実は、そちらのほうが強烈な魅力なのかもしれないが、ほとんどの項目がバロウズ自身の実体験をもとに語られているのだ(「26 子供を先立たせるには」など例外はある)。

 13歳から20年以上もタバコを吸っていた彼に言わせると、「禁煙は信じられないほど簡単だ」。ただし、「ただ辛かった。辛いという〈だけ〉だった」(「17 禁煙するには」)。またバロウズは、死にかけるほどのアルコール依存だった。命か酒のどちらを取るか迫られたときも、彼は酒を選んだ。だが、それから今日にいたる13年間は「ただの一度も飲みたいと思ったことはない」らしい。

「12 人生を終わらせるには」について言えば、もちろん彼は命を絶ってはいない。だが、かなり寸前のところまでは行ったらしい。そして、気づいた。命を絶つことだけが人生を終わらせる方法ではない、ということに。そうして実際、彼はそれまでの人生に終止符を打ち、「オーガステン・バロウズ」という新たな別の人生を生きることにした(彼は18歳で改名している)。

 なんだ、名前を変えるだけか......と思うかもしれない。ふつうの著者が書いた本なら、その反応が当然だ。大して苦労していなさそうなコーチだのメンタルトレーナーだのが書いた本なら、壁に投げつけたくなるかもしれない。でも、バロウズの言葉には重みがある。言葉そのものというよりも、彼の体験が重く、暗く、そして深い。その世界をのぞいた人でなければ醸し出せない説得力があるのだ。

 何事も、経験者の言葉ほど価値のある教訓はない。不幸のエキスパートから学んでおけば、ある日突然、自分の身になんらかの不幸が降りかかってきても絶望することなく、なんとか生きていける。

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