最新記事

フィリピン

マルコス元大統領を英雄墓地に埋葬したがるドゥテルテの思惑

2016年11月14日(月)17時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

英雄墓地に独裁者を埋葬するなどとんでもないと反対する人々 CZAR DANCEL-REUTERS

<1965年~1986年までフィリピンの長期政権を率いたマルコス元大統領。経済を発展させた反面、反政府派を弾圧し、最後は民主化勢力に国を追われた独裁者を、英雄墓地に埋葬するか否かで国を二分する騒ぎが起きている。その背景には、マルコスを敬い、自らも独裁者から英雄になりたいと願うドゥテルテの願望があるというのだが>

 11月8日、フィリピン最高裁判所が一つの決定を下した。一時凍結していたフィリピンの第10代大統領、フェルディナンド・マルコス氏(1917年~1989年)の遺体をマニラ首都圏にある英雄墓地に埋葬することを許可するという決定だった。

 決定に至る最高裁裁判官の投票は「賛成9票反対5票」と賛成多数による決定だった。しかし、5票が「反対」を示したことにこの「マルコス埋葬問題」の根深さが象徴されている。

 この問題の発端は6月30日に国民の圧倒的多数を得て大統領に就任し、その後も不規則発言や暴言などで今や国際社会で有名となっているドゥテルテ大統領だった。

 現在、北イロコス州バタックにあるマルコス元大統領の実家敷地内に特設された霊廟に冷凍保存されている遺体についてドゥテルテ大統領が「英雄墓地への埋葬」を容認したのだ。この容認を契機に9月28日のマルコス元大統領の命日に間に合うようにと埋葬計画が動き出そうとした。このため8月14日、9月22日にマニラ市だけではなくバギオ、ダバオ、セブなどフィリピン各地で「マルコスは英雄ではない」「独裁者は英雄墓地に相応しくない」という反対デモや集会が起きた。そして市民連合「バヤン」が最高裁に「英雄墓地埋葬の一時差し止め」を訴え、最高裁がこれを認めたことから「一時凍結」されていたのだ。

マルコス支持者、家族の悲願

 マルコス元大統領は言わずとしれたフィリピン現代史に大きな役割を果たした指導者で、1965年から約20年間もの長期にわたり大統領を務め、目覚ましい経済発展の推進役となりフィリピンを東南アジアの優等生に育て上げた。

 一方でマルコス元大統領は強権的な政治手腕により人権活動家や学生運動家、反政府組織メンバーなどには武力による弾圧で徹底的に抑え込むという独裁的手法を駆使し、次第に国民の反発を招くようになった。

 その結果1986年の民主化を求めるピープルズパワー(エドサ革命)で大統領の座を追われ、亡命先の米ハワイで1989年に死亡。遺体はその後故郷への帰還が認められたが、熱烈なマルコス信者や長女、北イロコス州のアイミー州知事、長男のフェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン)上院議員、妻のイメルダ下院議員ら家族にとって英雄墓地への埋葬はぜひ叶えたい悲願となっていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中