最新記事

2016米大統領選

投票日直前の「メール問題」で激変する、スイング・ステートの最終情勢

2016年11月7日(月)19時00分
渡辺由佳里(エッセイスト)

Carlos Barria-REUTERS

<ヒラリーの「メール問題」再捜査のニュースは、最終盤の激戦州を大きく揺さぶった。FBIは結局、あらためて「訴追しない」ことを明らかにしたが、すでにヒラリーが被ったダメージは大きい>(写真:週末にニューハンプシャー州で遊説するヒラリー)

 今回の大統領選では国務長官時代のヒラリー・クリントンが私用メールサーバーを使ったことが継続的に問題になっていた。しかし、本選が始まってからFBIのコミー長官が一旦「訴追に値する証拠はない」と発表し、スキャンダルが静まりつつあった。

 その後、トランプの側に過去の女性蔑視発言など「オクトーバー・サプライズ」と呼ばれるスキャンダルが続出した。その結果、10月中旬の世論調査では、ヒラリーが地滑り的勝利を狙えるほどリードしていた。

 ところが、投票日の11日前になって今度はヒラリーへの「オクトーバー・サプライズ」が飛び出した。「FBIがヒラリーのメール問題で捜査を再開した」という報道だ。

 メディアの見出しだけを見た人は、ヒラリーが法を犯した新たな証拠が出てきたと考えただろう。

【参考記事】トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

 しかし、捜査の対象になったのは、ヒラリー本人が送受信したメールではない。彼女の右腕として長年働いているフーマ・アベディンの夫で元下院議員のアンソニー・ウィーナーのコンピューターと、そこから送受信されたメールだ。妻のアベディンがこのコンピューターを使ってヒラリーにメールを送った可能性があり、その中に、ヒラリーが機密情報を個人メールサーバーで送った証拠があるかもしれない、というものだ。「かもしれない」というだけで、FBIはまだ内容をチェックしていなかった。

 前途有望な若手政治家だったウィーナーは、ソーシャルメディアで性的な写真を女性に送ったスキャンダルで下院議員を辞任し、カムバックを図ったときにも新たなスキャンダルが露呈して政治生命を失った人物だ。クリントン夫妻とも親交がある。

 問題は、FBIのコミー長官が議会のリーダーに手紙を書いたタイミングと内容だ。

 ヒラリーに直接関係がない証拠で、しかもFBIはまだ内容を調べてもいない。その段階で、しかも選挙直前に発表した。ジョージ・W・ブッシュ政権で司法長官だったアルベルト・ゴンザレスなど、共和党サイドからもコミー長官の行動を批判する専門家が出ている。

 アメリカには1939年に制定された「ハッチ法」という法律がある。政府職員が選挙の結果を左右するような言動をすることを禁じているが、コミーがこのハッチ法に抵触するのではないかという見方もある。

 しかし、国民は詳細にまでは気を配らない。報道の見出しだけで「ヒラリーは犯罪者」という印象を受け、ソーシャルメディアでも話題となり、一気に世論調査はトランプ有利に傾いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アジア、昨年は気候関連災害で世界で最も大きな被害=

ワールド

インド4月総合PMI速報値は62.2、14年ぶり高

ビジネス

3月のスーパー販売額は前年比9.3%増=日本チェー

ビジネス

仏ルノー、第1四半期売上高は1.8%増 金融事業好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中