最新記事

中国政治

習近平と李克強の権力闘争はあるのか?――論点はマクロ経済戦略

2016年10月18日(火)17時54分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 これもまったく見当違いの分析で、2016年4月には、「地方視察を徹底する」という、中共中央政治局会議の決定と日程調整に従ったまでだ。たとえば関連する中共中央政治局委員の日程を見てみよう。

4月11日~14日:孫春蘭(中央統一戦線部部長)、陝西省視察

4月17日~20日:張徳江、湖北省視察

4月22日~25日:劉雲山、陝西省視察

4月24日~27日:習近平、安徽省視察

4月24日~27日:李克強、四川省視察

4月24日~25日:劉延東(国務院副総理)

 たしかに習近平と李克強の日程だけを取り出せば重なっている。そして党内序列ナンバー1とナンバー2が同時に北京を離れることは、一般にはそう多くはない。しかし、調整がつかない時には党内序列ナンバー3か4が北京にいて、なんとか緊急事態に対処するという大原則が、党の政治の中にある。

 このとき北京には党内序列ナンバー3の張徳江あるいはナンバー4の兪正声がいたはずで、これを以て「習近平・李克強の権力闘争」とするのは基礎知識の欠如によるものと判断される。

3.同じ議題の会議の同時開催に関して

「5月6日に劉雲山が"習近平の人材体制開発"に関する学習会を開き、同じ日の5月6日に李克強が類似のテーマの"人材資源の座談会"を開催したのは、習近平の李克強に対する嫌がらせである」という分析がまかり通っている。

 これは、まさに「党と政府」「中共中央と国務院」という「ペア」になっている政治の基本を知らない顕著な例と言っていいだろう。

 同様の例は「3月22日に習近平が開催した"中央全面深化改革領導小組第22回会議"と6月27日に開催した"中央全面深化改革領導小組第25回会議"に李克強が出席していないのは、李克強を排除するための習近平の暗闘以外のなにものでもない」という分析にもみられる。

 しかし第23回会議(4月18日)および第24回会議(5月20日)には、李克強は出席しており、22回会議の時は李克強は海南島で開催されていたボーア・フォーラム(3月22日~25日)に出席しており、第25回の時は、天津で開催された夏季ダボス会議(6月26日)に出席していた。

 また、2人の間に権力闘争があるとする論者は、「7月8日に習近平が"経済形勢専門家座談会"を開催したというのに、それに対抗して李克強が7月11日に"経済形勢に関する専門家と企業家による座談会"という同じテーマで座談会を開き、互いに相手が主宰した座談会に出席していないのは、二人が対抗している動かぬ証拠だ!」と主張する。

 これも中国政治構造のイロハを知らない人たちの邪推に過ぎない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中