最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

非難合戦となった大統領選、共和党キーマンのペンスの役割とは

2016年10月11日(火)14時50分
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

 それは、副大統領候補のマイク・ペンス知事(インディアナ州)との齟齬という問題だ。これは予想外に顕著な形で出てきた。それも大変に重要なシリアの「アレッポ情勢」に関する部分で、だ。ペンスは、先週の副大統領候補討論の中で、「住民が虐殺されて人道危機が起きている」ので「アサド軍の地上施設破壊」などを視野に「米軍としては軍事的介入も辞さず」ということを語っている。

 このペンス発言を支持するかという質問に対して、トランプは「ノー」と答えた。つまりアサドは「ISISを攻撃しているから善玉」だとして、アサドとそのスポンサーのロシアをあくまで擁護し続けたのだ。これは大変な「ズレ」だ。アメリカの大統領選で「大統領候補と副大統領候補の間で重要な政策に関して相違がある」というのは少なくとも、20世紀以降では前代未聞だろう。

 一体何が起こっているのか?

 可能性としてあるのは、背後でペンスを中心とした「何か」が動いているという見方だ。一部の報道によれば、ペンスと夫人は一連のトランプの「女性蔑視発言」あるいは「性的な不規則発言」に対してカンカンに怒っていると言われている。何しろ厳格な宗教保守派で鳴らし、「トランプ候補は3回結婚しているが、私は30年同じ妻と連れ添っている」というペンスには、絶対に許せない種類の発言だろう。

【参考記事】「トランプ隠し」作戦が効いた、副大統領候補討論の評価

 一部の報道には、8日の時点でペンスがトランプとの選挙運動をキャンセルするという話もあった。これに加えて、軍事外交において喫緊の課題であるシリア戦略に関して、事もあろうにアレッポでの民間人殺戮を繰り広げている「アサド政権=ロシア連合」をトランプは支持するという。

 しかし第2回テレビ討論の直後にペンスは、「トランプ候補の健闘を称える」ツイートを出した。そして一夜明けた10日になってCNNのインタビューに応じたペンスは、「候補辞退など滅相もない」として戦線離脱を否定している。要するに、自分や支持者の個人的な不快感を「封印」して、当面はトランプ支持で進めるというのだ。

 ここで浮かび上がってきたのは、3つのシナリオだ。

 1つは、このままトランプが「降りもしない」し「浮上することもなく」ヒラリーが勝つ、一方で共和党の議員たちは「分裂選挙」を戦うというシナリオ。ペンスは「選挙戦の体裁を維持する」ために副大統領候補として運動を続ける一方で、トランプとの差を埋めることもしない、ある意味で大統領と議会の分裂選挙における「体裁を整えるバッファー」として機能するということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中