最新記事

民主政治

インターネットで政治は変わる? 海賊党・欧州議会議員と考える「液体民主主義」の可能性

2016年9月5日(月)17時20分
Rio Nishiyama

 このほかにも、ここでは書ききれないほど様々なアイデア、意見、問題意識があがった。

 ひとつ、このシンポジウムを通してレダ議員が強調していたことは、「液体民主主義」の実現には、小手先の手法や技術ではなく、もっと根元的なシステムづくりと参加者の意識づくりが必要なのだ、ということだ。

 たとえばレダ議員の話によれば、液体民主主義発祥の地であるドイツ海賊党では「透明性」と「プライバシー」の両立の問題が折り合わなかった(だれがどのように投票・意見表明したか、というプロセスの透明性と個人のプライバシーの保護は完全に両立させることは不可能であるため)。このためドイツ海賊党では液体民主主義の活用をすでに取りやめている。その意味で、液体民主主義を最初に導入したヨーロッパにおいてすらも液体民主主義は「成功している」とは言えないし、まだまだ根本的に改善しなければならない課題が多くある。

 ただ、液体民主主義というヨーロッパで起こった現象から、そしてレダ議員のメッセージから、日本が学べることがあるとすれば、「液体民主主義」のような民主主義の実験、失敗、検証をくりかえしながら、民主主義のクオリティを向上させていくこと。市民ひとりひとりが自分が属する社会のあり方、制度に関心を持ち、自らの手でそれを良くしていくこと、良くすることができると考えること、という姿勢そのものなのかもしれない。

 Brexitの衝撃的なニュースや、世界的なポピュリズム政治の傾向から、「液体民主主義」のような試みは窮地に立たされている。そのような情勢の中で、私たちはつねに、「テクノロジーがすべてを解決する」と楽観視するのではなく、テクノロジーを使うことによって私たちはなにができるのか、社会をどう良くすることができるのか、考えていかなければならない。そしてそれを私たちに考えさせることこそが、テクノロジーが生み出した「液体民主主義」というムーブメントの最大の意義であり、そして私たちへの最大のチャレンジなのだ、と、レダ議員は教えてくれた。


[筆者]
Rio Nishiyama
元・欧州議会インターン。1991年生まれ。早稲田大学社会科学部・政治経済学部中退。オランダ・マーストリヒト大学卒業。2011年、スウェーデンのルンド大学に留学時海賊党を知りその後活動に関わることになる。大学卒業後、ブリュッセルの欧州議会にてドイツ海賊党議員のもとで半年間のインターンを経験。その後帰国。専攻はEU政治とEU著作権法改正プロセス。(Twitter: @ld4jp, Website:https://ldjp.wordpress.com/)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5

ビジネス

英建設業PMI、10月は44.1 5年超ぶり低水準

ビジネス

ECBの金利水準に満足、インフレ目標下回っても一時
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中