最新記事

フィリピン

アブサヤフのテロに激怒、ドゥテルテ大統領がまた殺害容認か

2016年9月5日(月)16時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

 こうした問題への根本的解決を図るためにドゥテルテは大統領就任後の7月25日に行なった施政方針演説で「我々は平和を求めている。死人に対してではない、生きている人々の話だ。交渉する準備があることを強調する。それでもなお銃を撃つ。皮肉だ、悲劇だ、終わりがない」「私は残された家族の痛みをみてきた。倒れた兵士の痛みではない」と反政府各組織に停戦を呼びかけ和平交渉の開始を求めた。

 これは6月30日の大統領就任演説で示した「過去は過去として忘れよう」というドゥテルテの国家指導者としての新方針に基づく画期的な提案だった。この背景には、国内治安問題やテロ問題を「過去を水に流してとにかく和平にこぎつける」ことで国民の最大の関心であり期待でもある「麻薬問題解決」に全力投球したいとの決意があった。

 こうしたドゥテルテの思惑と期待に新人民軍は紆余曲折があったものの応じる姿勢を示し、ノルウェーのオスロで5年ぶりに再開した和平交渉の末8月26日には「無期限停戦を盛り込んだ共同声明」の発表にまで漕ぎつけた。

停戦、和平拒否のアブサヤフ

 これに対しアブサヤフは一向に停戦の呼びかけに応じる気配をみせず、8月26日にはミンダナオ地方のスルー州パティクルで国軍と大規模な交戦が勃発、アブサヤフの戦闘員19人が殺害される事態となった。今回の爆弾テロはこの時の報復ではないかとの見方もでている。

 アブサヤフは依然として外国人を含む10人以上の人質を拉致しており、フィリピン人男性やカナダ人男性の斬首殺害を繰り返しており、ドゥテルテの「堪忍袋の緒」は今回の爆弾テロで完全に切れた状態となった。

 アブサヤフ問題が単なるフィリピンの国内問題に止まらないのは、誘拐の対象が国際的だからだ。これまで誘拐の被害者にはインドネシア、マレーシアの漁民や船員、カナダ人やノルウェー人観光客などが含まれ、身代金支払い交渉などで国際的な仲介組織、仲介人が暗躍している実態もある。

 アブサヤフはマスコミ報道では中東のイスラム系テロ組織ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)と関係がある組織と報じられることがあるが、フィリピン治安当局では「ISISとの関連を語っているだけで、実質的な関連はない。誘拐による身代金目当ての単なる犯罪組織」との見方も示している。とはいえ、一般市民を狙った爆弾テロや外国人誘拐を繰り返している以上「テロ組織」の範疇に属していることは間違いない。テロ組織となると国際的な共同対処が求められ、前任のベニグノ・アキノ3世政権下では米軍と共同で掃討作戦を実施したこともある。

【参考記事】フィリピン過激派組織がISISと共闘宣言

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏関連資料、司法省サイトから削除か エプス

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中