最新記事

イラク

イスラム女性に襲われISISがブルカを禁止する皮肉

2016年9月8日(木)16時20分
カビタ・スラナ

ISIS支配下ではブルカを着て顔も覆わなければ処刑もありうる Amer Almohibany-REUTERS

<ブルカ禁止はもともと、顔を隠し武器を隠し持ったテロリストを恐れたヨーロッパが始めたイスラム差別だが、それでISISの戦闘員が殺されるとは>

 ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)の支配地域に暮らすイスラム教徒の女性にとって、ドレスコードは一つしかない。全身を覆うブルカだ。公共の場でブルカを着用しなければ見せしめに罰せられ、最悪の場合、処刑される。

 だが今後は、逆にブルカや顔を隠すベールを禁止せざるを得なくなるかもしれない。イラン国営の衛星放送「アルアラム」が伝えた。

 最近はフランスで、イスラム教徒の女性が着る肌の露出を控えた水着「ブルキニ」着用の是非をめぐる論争が過熱しているが、今度はISISが、イスラム女性が顔を隠すベールの着用を禁止しようとしているという。

 きっかけは、ブルカがISISに対するテロ攻撃に一役買う事件が起きたことだ。イラクの英語ネットメディア「イラキ・ニュース」の報道によると、事件は9月5日にイラク北部モスルの南方にあるシャルカットの検問所で発生した。ベールで顔全体を覆った一人の女が、隠し持っていたピストルでISISの戦闘員2人を撃ち殺したのだ。

 ブルカの着用は、厳格なイスラム国家の樹立を目指すISISにとっては絶対のはず。それが治安上の理由で例外を認めなければならないとは実に皮肉だ。今後も町の中ではブルカの着用が強制されるが、モスルにある治安施設や軍の検問所では着用が禁止される。モスルは2014年6月にISISが制圧したが、イラク軍や米軍主導の有志連合による空爆で劣勢に立たされている。

ヨーロッパのテロ対策

 治安維持の問題としてブルカなどの着用を禁止する議論は、もともとヨーロッパの国々が始めたことだ。ヨーロッパで増え続けるイスラム教徒や、ISISに感化されたローンウルフ(一匹狼)によるテロが相次いだことに、各国政府が警戒を強めているからだ。

【参考記事】腐り始めた「人権大国」フランスの魂

 国として顔の全体を隠すベールの着用を禁止したのはフランスとベルギーだけだが、イタリアやスイスでも各自治体の判断で禁止できる。移民に寛容な政策をとってきたドイツでも、相次ぐテロを背景に、ブルカ着用の禁止を支持する世論が高まりつつある。最近ではやはりフランスで、肌を露出できないイスラム女性のための水着ブルキニを禁止する動きが広がって、人種差別と批判された。

【参考記事】フランス警官、イスラム女性にブルキニを「脱げ」

 ISISの支配下で女性がブルカ着用の義務から完全にブルカ着用を全面的に免除するよう方針転換するとは思えない。

 だが8月上旬にISISから解放されたばかりのシリア北部マンビジュの様子を伝えた映像や写真から、ISIS撤退後のモスルの光景は想像がつく。女性たちは堂々と顔を出して解放を喜んでいた。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中