最新記事

電子書籍

「キンドル読み放題」の隠れた(けれども大きな)メリット

2016年8月29日(月)17時30分
渡辺由佳里(エッセイスト)

 逆に、大手出版社からアマゾン・パブリッシングに移籍する作家もいる。O.J.シンプソンの元妻殺害事件で主席検察官を務めたマーシャ・クラークは、検事を辞めた後にミステリー作家に転じ、大手出版社のアシェットから犯罪小説を出版した。4年間で6冊という人気シリーズだったが、クラークはその後「Thomas & Mercer」に移籍して今年新たに別のシリーズを開始している。

 同じアシェットのSF・ファンタジー部門であるOrbitから人気シリーズを出していたレイチェル・アーロンは、アマゾン・パブリッシングではなく自費出版に切り替えて、Kindle Unlimitedで新シリーズを提供している。

 アマゾン・パブリッシングや自費出版という形態でKindle Unlimitedに作品をリストしていても、クラークやアーロンはアマチュアではない。ちゃんと文芸エージェントがついているプロであり、作品の完成度も高い。アーロンの「Heartstrikers」の第一巻『Nice Dragons Finish Last』のオーディオブック版は、Audio Publishers Association (APA)が優秀なオーディオブック作品に与える「Audi賞」も受賞している。

 文芸の分野はまだ遅れているが、SF・ファンタジー、YAファンタジー、ミステリー、スリラー、ロマンスといった分野では、「アマゾン・パブリッシングの作品」や「自費出版の作品」に対する評価も高まりつつある。

 日本の洋書ファンにとっては、使いこなせば絶対にお得なサービスだ。

【参考記事】「世界最大の書店」がなくなる日

 では、作家サイドのデメリットはどうだろうか? Kindle Unlimitedは、売れっ子ではない作家にとってはかえって得だという。

 トップクラスの作家の場合、大手出版社はPRに力を入れるし、書店で平積みにもしてもらえる。だが、そうでない作家はなかなか読者に見つけてもらえない。Kindle Unlimitedにリストアップされると、読者の目に触れ、ランキングも上がる。ただでPRしてもらっているようなものだ。

 そしてKindle Unlimitedの場合には、読者が読んだページに応じて支払いがある。情報投稿サイト「The Winnower」で紹介されている例では、定価2.99ドルの作品を売った場合の印税2ドルに比べ、Unlimitedでの支払いのほうが0.68ドル高かったという。先に出てきたレイチェル・アーロンも同趣旨のブログ記事を書いている。

 刊行した作品がすぐに古本屋で販売される日本の場合、読者が「本」という媒体を買っても印税が入ってこないこともある。日本の作家の場合、Kindle Unlimitedで読者が読んでくれた方がお得ということになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中