最新記事

南極

氷河を堰き止めている棚氷が崩壊の危機

2016年8月24日(水)17時11分
アバニーシュ・パンデイ

Pauline Askin-REUTERS

<陸上から洋上に張り出した南極で4番目に大きい棚氷に亀裂が広がっている。もし崩落し、背後に堰きとめられていた氷河が流れ出せば海面上昇を招くことが懸念される>

 今年は南極にとって受難の年だ。

 5月に発行された科学誌ネイチャーには、東南極で最も急速に溶解が進むトッテン氷河が「根底から不安定化している」と警告する論文が掲載された。続く6月、米海洋大気局(NOCC)は南極で観測した二酸化炭素(CO2)濃度が400万年ぶりに400PPMを超え、危険ラインを超えたと発表した。

 そして今、南極海で4番目に大きい棚氷(陸上から洋上に張り出した氷)「ラーセンC」について、科学者たちが新たに憂慮すべき兆候を見つけた。イギリスの南極調査チーム「プロジェクトMIDAS」によると、ラーセンC棚氷の表面に巨大な裂け目が生じ、急速に広がっているという。

 2011~15年の間に全長約30キロに広がったラーセンC棚氷の亀裂は、前回観測した16年3月からわずか5カ月間で22キロ伸長した。隣りのラーセンA棚氷とラーセンB棚氷は、それぞれ1995年と2002年に崩壊した。

【参考記事】魚が消える、海が死ぬ

 報告書を発表したMIDASは、警鐘を鳴らす声明を発表した。「このまま亀裂が拡大し続ければ、最終的には巨大な棚氷が、分離して一気に崩壊する。そうなればラーセンC棚氷の9~11%が消滅し、氷河をせき止めている氷崖が崩壊する最悪の危機に陥る。コンピューターのモデル解析によると、残存した棚氷も不安定になり、ラーセンCは崩壊したラーセンBの二の舞になる可能性が高い」

地震と同じで予測不可能

 MIDASの氷河学者であるマーティン・オリアリーによると、もし今回の予測が現実になれば、アメリカのデラウェア州の面積に相当する巨大な氷の塊が海中に沈むことになるという。

「亀裂が拡大するメカニズムにはまだ謎が多く、棚氷がいつ崩壊するかを予測するのは難しい。地震の予測と同じだ。明日起きるかもしれないし、数年後かもしれない」

【参考記事】欧米の大雪は北極の温暖化のせいだ

 棚氷の大部分はすでに洋上に浮かんでいるため、崩壊しても海水面の上昇にそれほど影響を及ぼすことはない。だが棚氷が消滅すれば、背後にせき止められていた氷河が海に流出するスピードが速まり、もともと上流や陸上にあった氷までもが海に流れ込むことになる。その結果、世界の海水面の上昇に深刻な影響を与えると懸念されている。

(International Business Times)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送日銀、金融政策の維持決定 食品高騰で25年度物

ビジネス

中国7月製造業PMIが低下、4カ月連続50割れ 国

ワールド

中国と「非常に公正な合意」へ、貿易協議順調とトラン

ビジネス

米政府、シェブロンにベネズエラでの事業認可付与 制
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中