最新記事

中東

トルコとロシアの新たな蜜月

2016年8月15日(月)16時00分
オーエン・マシューズ(元モスクワ支局長)

 トルコとロシアの間には、シリア問題もある。エルドアンはシリアのバシャル・アサド大統領と親密だったが、13年に反政府武装勢力支援に回った。以来、アサド政権を支持するロシアと対立する関係にある。 

 だがここへきて、状況はトルコに不利になり始めた。ロシアの軍事介入でアサドの地盤は固まり、トルコ政府が敵視するシリアのクルド人勢力は、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)と戦う仲間としてアメリカの支援を受け、力を増している。

 ロシア軍機撃墜事件後は、プーチン政権もクルド人勢力に肩入れする。クルド人勢力は今年3月、実効支配するシリア北部一帯で連邦制による自治を行うと宣言。トルコ国内のクルド人問題の火に油を注ぎかねない「クルド国家」樹立を阻止するには、エルドアンはプーチンに助けを求めざるを得ない。

【参考記事】あの時、トルコ人はなぜ強権体質のエルドアンを守ったのか

 すべてを考え合わせれば、ロシアとトルコには親密な関係を再開させる強い動機がある。関係強化は両国の多くの人々にとっても喜ばしいことだろう。

 プーチンに影響力を持つとされる極右思想家、アレクサンドル・ドゥーギンはクーデター未遂の当日にトルコで、エルドアンの腹心でアンカラ市長のメリヒ・ギョクチェクと会った。

 ドゥーギンのサイトによれば、ギョクチェクいわくロシア軍機撃墜は米CIAとギュレン支持者の陰謀で、トルコとロシアの仲を裂くことが狙いだった。ギュレン派の脅威を過小評価したのが「トルコの過ちで、今後は過ちを正す。最初の一歩がロシアとの友好関係の回復だ」と、ギョクチェクは話したという。

 エルドアンの命、あるいは政治生命を救ったのがロシアの情報でないとしても、クーデター未遂でエルドアンの欧米不信に拍車が掛かったことは確実だ。独裁志向を強めるエルドアンは自分とよく似た男、プーチンとの絆をひたすら深めている。

[2016年8月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中