最新記事

テクノロジー

夢の3Dプリンターはもう失速

2016年8月3日(水)16時00分
アービンド・ディラワー

 3Dプリント業界を駆け巡る熱狂は、その期待と現実との間に隔たりを生んだ。デジタルデザインのスタジオ「メイクモード」はメーカーボットの2500ドルの機種など低価格プリンターを2台購入したが、どちらも頻繁に故障。結局はストラタシスの2万2000ドルと3Dシステムズの6万5000ドルの高額機種に買い替える羽目になった。

 低価格プリンターのトラブルや訴訟が相次ぎ、メーカーボットの経営は悪化。親会社ストラタシスの株価も急落した。低価格機種への参入を狙っていた3Dシステムズの株価も暴落した。

 それでも専門家は、3Dプリントの未来を楽観している。コンサルティング会社ウォーラーズ・アソシエイツは、2021年までに同業界は212億ドル規模に成長するとみている。

一般向けは製造打ち切り

 ただし同社は、低価格の一般消費者向けプリンターには懐疑的だ。「蛍光グリーンのヨーダ人形でも飽きるほど作って、しまいには何で3Dプリンターを買ったんだっけ、と思うのがオチだ」と、上級コンサルタントのティム・キャフリーは言う。彼らの調査では今後、高品質・高価格の3Dプリンターを、より多くの産業系顧客が購入するようになる見込みが高いという。

【参考記事】私がポケモンGO中毒になるまで

 例えば金属を素材として使用できる3Dプリンターは、今では製造ラインに取り入れられている。航空機大手エアバスは既に、1000以上の部品を3Dプリンターで作製している。

 大手2社は、自動車や医療、歯科などへの応用も狙う。その一方で3Dシステムズは一般消費者向け製品に見切りをつけ、昨年12月に低価格プリンターの製造を打ち切った。

 では、各家庭でカスタマイズ商品をプリントできるという新・産業革命の夢はどこへ行ったのか。「5年後にそれも実現できると私は信じている」と、メーカーボットのジョナサン・ジャグラムCEOは言う。今のところ家庭の3Dプリンターで使える素材はプラスチックしかないことや、信頼性の問題も解決できるだろうと彼は自信を見せる。

 ジャグラムは今年4月、3Dプリンター製品デザインを共有できるサイト「シンギバーズ」を開発者に開放すると発表した。アップストアの開発競争がiPhone普及を後押ししたように、オープンソースのサイトが開発参入の垣根を低くし、活性化につながると考えている。

 だがそうした取り組みも、投資家の受けはいまひとつのようだ。今年4月、メーカーボットは自社工場の従業員の大半を解雇して、プリンター製造をアウトソーシングすることを決定。翌月には大手2社の株価も大幅に下落した。

 投資家たちは気付いているのかもしれない。3Dプリント業界が昔ながらの製造業の道のりをなぞるのなら、しょせん革命なんか起きないだろう、と。

[2016年8月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中