最新記事

テクノロジー

夢の3Dプリンターはもう失速

2016年8月3日(水)16時00分
アービンド・ディラワー

Sean Gallup/GETTY IMAGES

<ビジネスに革命を起こすと期待された技術だが、低価格化でトラブルが相次ぎ、投資家離れも深刻>(写真は15年にベルリンの見本市で頭蓋骨を作製する3Dプリンター)

 14年1月3日は、3Dプリンター業界にとって記念すべき日だった。3Dシステムズとストラタシスという業界大手2社の株が創業以来ほぼ30年ぶりの最高値を記録し、3Dプリント技術への期待はこれ以上ないほど膨らんでいた。

 多くの人がこう考えた。この技術が製造業に民主化をもたらし、消費者は家庭で自由にカスタマイズした製品を作れるようになる。小売店は無意味になり、消費者は好きなブランドのウェブサイトから商品のファイルをダウンロードし、数分でプリントできる。商品価格は大幅に下がり、国際貿易赤字は逆転し、倫理的に問題がありそうだったサプライチェーンは不要になり、環境への計り知れない負荷も抑えられるだろう......。

 だが14年1月3日は、大手2社の下り坂の始まりだった。その後2年で3Dシステムズの株は93%以上、ストラタシスは88%以上値下がりした。期待もしぼみ、今ではアナリストや研究者らは口をそろえる。3Dプリンターは実力よりも明らかに過大評価されていたと。

 3Dプリント技術は80年代前後に誕生し、もともとは「付加製造技術」というあまりパッとしない名で呼ばれていた。紫外線レーザーで光硬化樹脂を固めて一層ずつ積載し、3次元の物体を作成する「光造形法」と呼ばれる技術を基に、86年に設立されたのが3Dシステムズ。ストラタシスは89年、熱を使ってプラスチック繊維を溶かして一層ずつ積み上げていく「熱溶解積層法」という技術で創業した。

【参考記事】ロボット化の波は農業にも──「望んで仕事を奪う」わけじゃない、すべては「人次第」だ

 初期のビジネスは、産業界の顧客が主要ターゲットだった。試作品を迅速に製作する必要があり、1台1万ドル以上するプリンターを買う余裕もある企業だ。

 3Dプリンターの価格は05年に、オープンソースの「レップラップ」プロジェクトが登場してから下落を始めた。これは、プリンターそれ自体のパーツを製造できる低価格3Dプリンターを皆で開発しようという取り組みだ。

需要急増に投資家も反応

 世界中の何百もの開発者が参加し、特許切れになった技術を活用して、独自の新デザインを自由に使えるようにした。これによって3Dプリンターは急速に、カネをかけずに進化した。

 その結果、3Dプリンターの価格は大幅に下がった。09年にはメーカーボット社が750ドルの3Dプリンターキットの販売を開始。需要は同社の生産能力を超え、同社は新たな受注に対応するため、プリンターを買ってくれた顧客にプリンターのパーツ製作への協力を頼まねばならないほどだった。

 こうした需要急増に投資家も反応。11年にメーカーボットはベンチャーキャピタルから1000万ドルを調達し、13年6月にはストラタシスに買収された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中