最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

ヒラリー勝利のキーマンになるのは誰だ

2016年7月29日(金)18時40分
渡辺由佳里(エッセイスト)

 そしてルーズベルト大統領の言葉を引き合いに出し、実際に何かを達成できるのは、傍観者ではなく土俵に立つ人間だと語り、「その土俵に立っているのがヒラリー・クリントンだ。彼女は、私たちが気づかないときにも、ずっと我々のために土俵に立ってきた。もしあなたたちが民主主義に真剣ならば、彼女と政策がすべて一致しないからといって、投票せず家にいる余地などない。あなたたちも、彼女と一緒に土俵に入らなければならない。なぜなら、民主主義はスポーツ観戦ではないのだから」と、強く語りかけた。

 移民の国アメリカの価値観とそれを守ることの重要さについて語るオバマの言葉に、会場にいる多くの民主党員が心を打たれ、涙を流していた。

 支持率が急上昇しているオバマと好感度の高いミシェル夫人の2人は、ヒラリーの最強の応援団になるだろう。

 さらに意外なところからも支援の声が上がっている。サンダース支持者に強い影響力を持つ人たちだ。

【参考記事】トランプはなぜプーチンを称賛するのか

 2007年にイスラム教徒として初めて下院議員に当選したキース・エリソンは、サンダース支持者として知られ、党大会初日に登壇したサンダースを紹介する重責も果たした。サンダースの政策の多くが民主党の政策プラットフォームに取り入れられたのも、エリソンの手柄だ。サンダースがヒラリー支持を表明してからは、エリソンもヒラリー支持を表明している。

 ある政治番組で、今でもサンダース支持者からの野次やブーイングが消えないことについて質問されたエリソンは、笑顔で次のように答えた。「心配しなくても大丈夫。だから怒らないで欲しい。アメリカは抗議で建国したのだから。市民が情熱を抱いていることで声を上げるのは、決して間違っていない。党のリーダーはそこを考慮してやって欲しい」。つまり、個々の意見を封じ込めて表層的な団結をするよりも、自由に意見を表明させ、声を上げさせるほうが健全な民主党になるという考え方だ。

 エリソンの態度は、ヒラリー支持という点では消極的に見えるかもしれない。だが、韻を踏んだ詩のようなメッセージは強力だ。「Demonstration without legislation ends in frustration. (立法につながらないデモをしても、フラストレーションにしかならない)」。つまり、抗議デモをしているだけで満足していては何も解決しない。社会を改善するための法律を作れる政治家を当選させなければ、結局何も得られずにフラストレーションを募らせるだけで終わる、という意味だ。「ヒラリーに票を投じて当選させてから自分たちの要求を突きつけろ」と間接的にアピールしている。

 またニューヨーク・デイリーニュースの記者ショーン・キングも、熱烈なサンダース支持者で、厳しいヒラリー批判をすることで知られる。民主党全国委員会(党大会で辞任を表明)がヒラリー寄りの不正をしていると追求してきたキングは、サンダース支持者からも信頼されている。そのキングが、「次期大統領は、トランプとヒラリーのどちらかだ。現時点ではトランプがリードしている。我々はなんとしてもトランプを阻止しなければならない。そのために、僕はヒラリーに投票する」という内容の記事を掲載した。

 ヒラリーを「悪徳政治家」と決めつけるサンダース支持者の心には、オバマの言葉も響かないかもしれない。そんな人たちには、トランプ勝利への危機感に焦点をあてた、キングのようなサンダース支持者のメッセージの方が効果的だろう。

ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート

筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米マイクロソフト、英国への大規模投資発表 AIなど

ワールド

オラクルやシルバーレイク含む企業連合、TikTok

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで4年ぶり安値 FOM

ワールド

イスラエル、ガザ市に地上侵攻 国防相「ガザは燃えて
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中