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ベネズエラ

社会を分断し国を不安定化させるベネズエラの食料配給制度「CLAP」

2016年7月25日(月)20時32分
野田 香奈子

 この重大な難題を引き受ける運営組織が、プロイセン並みの能率を誇るはずがないのは言うまでもない。現政府におけるキューバ支持の強硬派がCLAPの組織に浸透しており、彼らの明らかにパルチザン的なバイアスのために、現場ではある種のジンバブエ的戦略を取り入れやすい状況ができている。つまり、社会統制の武器として、堂々と、あからさまに飢えが利用されるようになるということだ。

 ただし、ジンバブエでの差別はより地理的環境に基づいたもので、故意に飢えにさらされていたのは与党に反する地域全体だった。ベネズエラで起きているのはこれとは異なる。入手可能な食料の量からして全員に食料を供給することは計算上不可能なため、政治的信条によって地域内の特定の家庭が選択的に飢えにさらされる。

 選択的に一部の近隣住民を飢えさせ、同じ地区内の他の住民に食料を供給するようなことをして、いったいどのように社会の対立を制限しようというのか? この制度により、人々が表に出て抗議するようになることは明々白々ではないのか? 住民の半が絶望し、瀬戸際に立たされて、失うものは何もないような状況で、どうすれば地域が安定すると思うのか?

 私には、この政府のロジックが本当に理解できない。政府派が国民のニーズを全くわかっていないというのは、長年見て慣れているので理解できる。だが、この政策が自分たちの利益にならないということを政府自身がこれほど破壊的なまでに理解できていないという点は、本当に理解に苦しむ。このような政策を続ければ、現在目にしている社会の対立はひたすら悪化するばかりだ。大規模な社会の対立を招けば、現政府がこのまま統治を継続することは明らかに難しくなる。政府は自分たちにとって不利になることをしているのだ。

 何年も前のことだが、ベロベロに酔っ払った親戚の一人がかなり俗っぽくて月並みな格言を教えてくれたのを思い出す。彼はウィスキー臭い息を吐きかけながらこう言った。"Loco es el que come mierda." ── 狂気とは奇行を行うことではない。狂気とは自分の利益に反する行いをすることだ。
この考えに基づけば、「あの人たちは本当に頭がおかしい」ということになるだろう。

※当記事は野田 香奈子氏のブログ「ベネズエラで起きていること」の記事を転載したものです。

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