最新記事

南シナ海

中国空海軍とも強化――習政権ジレンマの裏返し

2016年7月25日(月)08時25分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 アメリカを中心とした「一部の国」が、「中国の軍事力を軟弱なものと誤読した」ためにこのような権力を侵害する不当な判決が出たので、中国軍は今後、「決して軟弱ではない」ことを見せつけていかなければならないと強調している。つまり「バカにされないように」南シナ海における軍事力の威力を常態化させることが肝要だ、としているわけだ。

あの「戴旭」までが叫び始めた

 中国人民解放軍・国防大学の教授を務める戴旭氏は、7月18日に開かれたネットシンポジウムで「南シナ海という中国の大門が閉ざされたら、中国は内陸国家になってしまう」という講演を行なった。

 中国南海ネットオンライン開設式で開かれた「南海問題シンポジウム」でのことだ。

 彼はさらに「中国は世論というプラットフォームで国内外の中国人と全地球上の中華民族の英知と力を結集して、アメリカと日本の陰謀をあばき、打撃を与えなければならない」と言った。

 戴旭というのは、2014年1月1日に中国のネットで発表された「2013年度中国人クズランキング」で、堂々の4位にランクイン入りした人物だ(詳細は拙著『中国人が選んだワースト中国人番付――やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』のp.77で詳述)。

 ネットユーザーにバカにされ、中国政府からはナショナリズムを焚き付けすぎて困ると眉をひそめられている彼までが駆りだされたとなれば、これは国内世論的に、非常にまずい状況が来ていることを意味する。

追いつめられる習近平政権

 これまで中国は、南シナ海に人工島を完成させるたびに、まるで戦争相手から島を奪い取ったかのごとく、「戦勝の歓喜」に沸いてきた。歌唱大会を開くなど、お祭り騒ぎだった。そのたびに「ほらね、中国共産党政権はすごいだろう?」と、求心力を高めるのに必死だったのである。

 その「偉大なる中国の領土・領海」が、実は他人のもので、中国にはそれらを所有する法的根拠がないとなったら、どうなるだろう。

 習近平政権は人民に対してメンツ丸つぶれなどという単純な言葉で表現できるレベルではない。そうでなくとも中共政府に不満を持つ中国人民が政府転覆に動くきっかけを作ろうとするかもしれない。

 そのため、あまり過激に愛国主義を煽るわけにもいかないのである。排外デモが、反政府デモに転換していったら困る。その可能性は、胡錦濤政権における反日デモで、イヤというほど見て来た。だから、習近平政権になってからは、反日デモさえ行なわせないように徹底して抑えつけてきた。その分だけ売国政府と呼ばれないようにするために、対日強硬姿勢を取ってきたのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中