最新記事

軍事

中国は南シナ海にも防空識別圏を設定するのか

2016年6月14日(火)16時20分
アンキット・パンダ

南シナ海で既に圧倒的な軍事力を誇る中国軍だが David Gray-REUTERS

<中国は南シナ海上空の防空識別圏の設定を米軍への対抗策として示唆するが、実際のメリットは領有権主張の意思表示くらいしかない>

 中国が南シナ海上空にADIZ(防空識別圏)を設定する準備をしている――香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストが先週、そう報じた。ADIZとは、各国が領空とは別に定める空域で、事前通告なしに侵入してきた航空機に対し、戦闘機の緊急発進(スクランブル)などを行って警告できる。中国は13年に東シナ海に設置し、日本との緊張が高まった。

 記事で引用された中国軍の情報筋の話では、ADIZの設置は南シナ海における米軍の「挑発的な動き」への対抗策だという(米政府は海軍による「航行の自由作戦」や空軍による偵察飛行で中国を牽制している)。

 このニュースは南シナ海での領有権を主張する関係諸国にとって微妙なタイミングで報じられた。領有権をめぐりフィリピンが中国を提訴している問題について、国際仲裁裁判所は今月中にも裁定を下す予定だからだ。

【参考記事】仲裁裁判がまく南シナ海の火種

 中国が南シナ海にADIZを設定しそうな兆候はいくつもあった。ADIZがきちんと運用されるには、スクランブルを行うためのインフラの整備が不可欠だ。中国は既に西沙(パラセル)諸島でウッディー(永興)島の滑走路に加えて、南沙(スプラトリー)諸島のファイアリークロス礁とスービ礁に新しく飛行場を建設している。

 一方、中国政府は結局、ADIZを設定しないのではないかと予想することもできる。中国はこれまで領有権主張の根拠を曖昧にすることで周辺国をもてあそんできた。中国が「歴史的権利」だとして南シナ海のほぼ全域の領有権を主張する領海線九段線に確たる根拠はない。

 もし南シナ海上空にADIZを設定するとなると、その線は海に引かれた九段線と一致させることはできるのか。九段線の一部にしか設定しないとなると、これまでの領有権の主張を放棄することになりかねない。

 だとしたら、中国軍の情報筋がADIZの設定が近いとリークする目的は何なのか。おそらく、米軍によるさらなる航行の自由作戦や偵察飛行を思いとどまらせることが狙いなのだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中