最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

ヒラリー勝利宣言でも撤退しないサンダースの深謀

2016年6月9日(木)16時00分
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

 まずサンダースはこの日、オバマ大統領から直接電話を受け、自分たちの選挙運動の盛り上がりについて評価を受けたと述べている。また今週9日には、そのオバマ大統領に招かれてワシントンで会談することも発表した。

 実は今週6日にヒラリーが「過半数超え」をしたとAPが報じた直後、オバマ大統領は「ヒラリー支持」を明らかにした。つまり、ヒラリー支持を打ち出した大統領からの電話も、会談への招待も、サンダースは喜んで受けている。そして、ここが大事なのだが、その経緯を知っている(と思われる)支持者たちは、この点に関してブーイングはしなかったのだ。

 サンダースは、ヒラリーからの電話があったことを明かし、その上でこの日のヒラリーの勝利を祝福するとも言った。こちらの方は、サンダースが制止したにもかかわらず場内は「ブーイングの嵐」となった。

 要するに、支持者の中には「アンチ・ヒラリー」の感情はまだ強く残っている。対する共和党のトランプは、この日の演説でも「サンダース支持派の人々は、われわれの陣営に来たら両手で抱きしめて迎える」と、サンダース派の「取り込み」を図っているという現状がある。

【参考記事】トランプのメキシコ系判事差別で共和党ドン引き

 実際に、若者層の中には「サンダースが候補にならなければ、多くは棄権するだろうし、一部は反ワシントンの心情からトランプに入れるかもしれない」という声は確実にある。

 今サンダースは、「ここで急に撤退宣言をする」のは得策でない、つまり自分たちの政治的主張を次期政権にのませるためにも、また民主党としてのヒラリー支持の流れにサンダース派を誘導するためにも、慎重に「時間をかける」ことが必要だという計算をしているようだ。

 この動きは、ちょうど8年前の同じ時期に「オバマが過半数に達した」中で、「引き際に困っていた」ヒラリー陣営の動向に重なる。「史上初の女性大統領は悲願」という支持者がなかなか敗北を受け入れない中、8年前のヒラリーも「敗北宣言」をせずに、最後は議会の大物ダイアン・ファインスタイン上院議員の事務所で、同議員とヒラリーとオバマの3人で長時間の協議をしたという。

 今回は、ファインスタイン議員ではなく、オバマ大統領が「調停」に乗り出す格好となったのは興味深いが、一部の専門家は、おそらく1週間前後で、サンダースは「撤退とヒラリー支持」を打ち出すだろうという推測している。カリフォルニアでの敗北にもかかわらず、サンダースが「撤退宣言」を保留したのは、真の「一本化」を実現するために、また血気盛んな若者の支持層を説得するために、「時間をかける」深謀遠慮と見えるのだ。

ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート

筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ新時代」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「米大学は中国人留学生なしでは苦戦」、支

ビジネス

三菱商、洋上風力発電計画から撤退 資材高騰などで建

ワールド

アングル:習主席、SCO首脳会議で結束演出へ トラ

ワールド

フィリピン中銀、政策決定発表を新方式に 時間30分
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 10
    「ありがとう」は、なぜ便利な日本語なのか?...「言…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中