最新記事

ドローン

野山に「火を放つ」ドローン、その狙いは──

ネブラスカ大の試作機が国立公園で実験成功

2016年5月23日(月)16時20分
高森郁哉

University of Nebraska–Lincoln-YoTube

 米国では近年、山火事の被害が深刻化している。そんな中、米ネブラスカ大学リンカーン校が開発中の「野山に火を放つドローン」に注目が集まっている。

 Phys.orgが昨年掲載した記事によると、2015年の自然火災は10月中旬までに5万件以上発生し、1960年以降で最大となる1100万エーカー(450万ヘクタール)以上が焼けたという。
 
 米ネブラスカ大学リンカーン校が昨年10月に発表した「Unmanned Aerial System for Fire Fighting」(UAS-FF:消防向け無人航空システム)は、マルチコプターのドローンに、発火性の化合物を詰めたカプセルを投下する装置を搭載したもの。山火事が発生した場合、火が到達するより前に一定の地帯を「野焼き」して防火帯を作り、延焼を防ぐことが狙いだ。こうした作業は現在、ヘリコプターや地上作業員によって行われているが、コストや安全性の点で問題がある。ネブラスカ大のドローンは、山火事の減災に役立つ低コストで安全な手段になるかもしれない。

【参考記事】【動画】ドローンを使ったマグロの一本釣りが話題に

 研究チームの説明によると、ドローンは過マンガン酸カリウムの粉末を詰めたピンポン玉状のボールを運び、投下する前にグリコール液を注入するという。これにより化学反応が起き、数秒後に発火する仕組みだ。また、ドローンはプログラミングにより、直線や長方形などの正確なパターンでボールを投下できるほか、温度が高すぎる場所や強風の空域に侵入しないよう自動制御するという。

gif.gif

 屋内と私有地での実験を経て、ネブラスカ大は4月22日、同州のホームステッド・ナショナル・モニュメント・オブ・アメリカ(米国が定める保存地区)でドローンの実験に成功したと発表した。消防士や報道陣が見守る中、第4世代の試作ドローンが26エーカー(約10万5000平方メートル)の野焼きに成功。この実験結果を受け、研究チームは今後、国立公園当局や米内務省との共同作業に着手する可能性もあると、同校は説明している。

 今回の実験は、事前に米航空宇宙局(NASA)がドローンを審査した後、米連邦航空局の許可を得て実施された。実験に先立ち、この春に同州南西部で予備テストを行い、私有地2000エーカー以上の野焼きに成功したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中