最新記事

南シナ海

ベトナムの港に大国が熱視線「海洋アジア」が中国を黙らせる

14年ぶりのカムラン湾開港にちらつく赤い影。南シナ海問題に無策の米政権に必要な文明史観とは

2016年5月2日(月)16時00分
楊海英(本誌コラムニスト)

かつてソ連軍が駐留したカムラン湾に日米の艦隊が入港 DIGITAL GLOBE/GETTY IMAGES

 今、西太平洋で最も熱い視線を浴びている港は、先月上旬ベトナムが中部カムラン湾に開いた国際港だろう。南シナ海に面した軍事的要衝で長く閉ざされてきたが、外国の軍艦や民間船を受け入れることとなった。

 中国、ロシア、アメリカ、日本など、世界の大国は皆ベトナムに求愛し、虎視眈々とカムラン湾に軍艦を乗り入れようとしている。ベトナムもしたたかに八方美人を演じ、誰に対してもほほ笑みを絶やさない。

 時代をさかのぼれば79年春に、中国が社会主義の弟分を「懲罰」しようとベトナムに侵攻。それと前後するかのように、ソ連はカムラン湾の租借に成功した。ソ連は中越戦争でベトナムを強く支持し、太平洋艦隊の一部をカムラン湾に駐留させた。

【参考記事】南シナ海の中国を牽制するベトナム豪華クルーズの旅

 ソ連の戦略はその後、ロシア連邦に引き継がれる。熊(ロシア)は龍(中国)と時に熱愛を演じても、太平洋方面の戦略的な拠点を放棄しようとはしなかった。

 カムラン湾の戦略的な地位が忘却された時期もあった。冷戦後の91年、対岸のスービック海軍基地をフィリピンが閉鎖して米軍が撤退。02年にロシアも撤退してからは、カムラン湾は外国に門戸を閉ざした。

ソ連が引いた隙に中国が

 米ソ2大国の対立が閉幕し、ソ連が歴史のかなたへ消えようとする。その隙を狙うかのように、南シナ海に躍り出たのが中国だ。ベトナム海軍を駆逐して、南シナ海を自国の内海にしようと主張しだした。

【参考記事】南シナ海「軍事化」中国の真意は

 見かねたアメリカはカムラン湾の「復帰」をベトナムに度々打診。ベトナム戦争という複雑な記憶を乗り越えて、11年にはついに星条旗を掲げた軍艦がベトナム人の歓迎を受けた。

【参考記事】アメリカは「中国封じ」に立ち上がれ

 ロシアもアメリカの行動を意識している。今年に入ってから、ロシアのショイグ国防相はカムチャツカ半島の軍事基地を視察。極東の軍港からベトナムを経てマラッカ海峡に至る、西太平洋の「弧」の強化を指示した。

 日本も今月、海上自衛隊の護衛艦「ありあけ」と「せとぎり」をカムラン湾に派遣。その前には練習潜水艦が護衛艦と共にスービック海軍基地を訪れていた。航行の自由作戦を実施中の米海軍への側面支援を担った演習の一環であろう。

 西太平洋の海が世界の表舞台に出たのは今に始まったことではない。「海」と「世界の近代化」との関係を分かりやすく描いた学説として、経済学者で静岡県知事を務める川勝平太の『文明の海洋史観』(中公叢書)がある。それによると、近代文明は西洋内部で自己生成したものではなく、「海洋アジア」のインパクトを受けて開花したものだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、FRB次期議長の承認に自信 民主党の支

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 3
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 4
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    【銘柄】「大戸屋」「木曽路」も株価が上がる...外食…
  • 7
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 10
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中