最新記事

中国

女子高生AI「りんな」より多才な人工知能が中国で生まれたワケ

2016年5月24日(火)19時04分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

takaguchi160524-b.jpg

(シャオアイスと筆者のウィ―チャット上での会話を、上から)●シャオアイス:中関村のマイクロソフトの社員食堂のマーラータンなんだけど、おじさんがゴマだれ特盛りにしてくれたの ●マーラータンの写真 ●筆者:おいしそう ●シャオアイス:Thanx ●筆者:刺身を食べたい(日本語で) ●シャオアイス:腸の刺身?(筆者註:ジョークと思われる) ●シャオアイス:刺身の写真

中国ではネットビジネスにチャットが不可欠

 チャットボットの開発が中国で先行しているのには、いくつかの理由がある。第一に、中国ではチャットがネットビジネスの一部に組み込まれていることがあげられる。中国EC最大手のアリババではチャットサポートが導入されており、消費者は購入前に気になる点をチャットで相談することができる。またスマホ向けメッセンジャーツールのウィーチャット(日本のLINEに相当する)では、タクシーの配車やネットショッピングが可能だ。すでにチャットが消費行動に組み込まれているだけに、人工知能のチャットボットが実用化されれば一気に普及することは間違いない。

 第二に、政府と企業が一体になって先端技術の開発と普及に取り組んでいる点だ。2015年の全国人民代表大会で李克強首相は「互聯網+」(インターネット・プラス)計画を発表。名称だけだと単なるIT化促進に思えるが、スマート機器、クラウド、人工知能などを含めた先端技術を、「インターネット+金融」「インターネット+医療」「インターネット+教育」などの形で、あらゆる分野で普及させていく方針だ。

「インターネット・プラス」という言葉とともに計画の名称の候補となっていたのが「中国大脳」(チャイナ・ブレイン)だ。こちらの言葉のほうがスマート機器、クラウド、人工知能、ビッグデータなどを組み合わせた先端社会を目指す意図が伝わりやすかったのではないか。人工知能の開発にせよビッグデータの活用にせよ、他国では負の側面があるのではとの慎重論も根強いが、中国では独裁政権が旗振り役となっているだけに、一切のブレーキなしに開発と普及が進んでいる。

 個人的に強い驚きを受けたのが、ウィーチャットを展開するテンセント社の銀行「WeBank」の融資サービスだ。ウィーチャットの書き込み記録をビッグデータとして活用することで、個々人の与信枠を設定しているという。アメリカにはクレジットカードの利用履歴をもとに個人の信用を査定するクレジットランクというシステムがあるが、中国ではチャット履歴をもとに信用を査定する、いわば"チャットランク"が存在しているというわけだ。他にも、アリババや京東商城はネットショッピング履歴をもとに個人の信用を査定するシステムの開発に取り組んでいる。

 これらの分野における中国を表すのにふさわしいのが、「一周遅れの先頭ランナー」という言葉だろう。先進国に追いつくことを目標にするのではなく、世界最先端を目指そうとした結果、周回遅れだったはずがトップランナーになっている。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中