最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

ヒラリー、トランプ圧勝でも予備選の混迷は続く

2016年4月21日(木)12時00分
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

 では、サンダースとその支持者はどうかというと、2008年とは異なる「怨念」が残る懸念がある。まず、政策がまったく違う。民主党内でも、中道実務派のヒラリーと、最左派のサンダースの立ち位置は相容れないほど遠い。また、支持層も違う。サンダースは若者に強く、ヒラリーは中高年に強い。さらにヒラリーは有色人種に強く、サンダースは中西部で強いなど、支持層が「違いすぎる」のだ。

 今回のニューヨーク州予備選では、手続きにも問題があった。州独特のルールにより「選挙人名簿への登録は1年前」という規定、そして「国政選挙を2回連続して棄権すると名簿記載が失効」するという規定により、サンダース支持の無党派層がまったく投票できず、一部の報道では10万票が無効になっているという。

 この点に関しては、州の規定にはあいまいなところはなく、連邦判事も「投票権確認の仮処分申請」をスピード却下するなど、論争の余地はないようだ。だが、投票できなかったサンダース支持派には、感情的な「しこり」が残りそうだ。

 サンダースは、過半数超えの望みがほとんど消えたにも関わらず、幅広く集めた個人献金の資金を使って選挙戦を続けている。例えばペンシルベニア州では「ヒラリーは、悪質な富裕層向け銀行と癒着している」などという、相変わらず一方的な広告を流しているが、この種のキャンペーンが、本選へ向けての党内の結束を傷付ける危険は無視できない。

【参考記事】大統領候補の高齢化が示すもの

 対する共和党では、ドナルド・トランプ候補が60.1%という得票率で大勝している。だが、2位のジョン・ケーシック候補が25.1%と善戦したこともあって、代議員数92の「総取り」はできなかった。トランプの獲得代議員数は89に終わり、通算で847となった。

 この60%超えというのは事前の世論調査を上回るもので、圧勝と言って良いのだが、問題はここで「代議員数3」を落としたことだ。現時点では残り674の中で、トランプが過半数+1の「マジックナンバー1237」を確保するには390が必要。つまり残りの代議員数の60%以上を取らねばならない。

 今回の勝利で、この「1237への到達」は理論的には可能になったと言われている。だが、多くのアナリストが試算の結果として指摘しているのは、「マジックナンバーに1人か2人足りない」という結果に終わる可能性が一番高いのだという。そう考えると、今回「3人少ない89に終わった」ことは重大だ。

 トランプ陣営もそのことは理解しているようで、「圧倒的1位であれば(過半数に届かなくても)指名されて当然」という主張を強く訴え始めている。だが、共和党の全国委員会は「ルールはルール」だとして、党大会の場での自由投票による「トランプ降ろし」の可能性を依然として追求してくるのは間違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ上昇、米FOMC後の

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

米農務長官、関税収入による農家支援を示唆=FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中