最新記事

朝鮮半島

昨年の地雷爆発、今週の機関銃誤射......DMZで続くあわやの事態

韓国と北朝鮮の軍が対峙する非武装地帯で緊張が高まっており、偶発的な出来事がいつか交戦につながる可能性は否定できない

2016年4月7日(木)17時53分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

意図せざるエスカレーション 昨年8月には、非武装地帯(DMZ)内で韓国軍兵士2人が北朝鮮軍の仕掛けた地雷を踏んで重傷を負い、韓国が報復措置として拡声器による心理戦「対北朝鮮拡声器放送」を再開して緊張が高まった(板門店、2013年) Jacquelyn Martin/Pool-REUTERS

 韓国と北朝鮮の軍が対峙する非武装地帯(DMZ)で3日、韓国軍の監視所から機関銃2発が誤って北朝鮮側に打ち込まれていたことが、韓国国防省関係者の証言で明らかになった。機関銃の整備中の事故であり、韓国軍は即座にその旨を放送で伝えた。北朝鮮側は無反応だったというが、ひとまず交戦に至らず済んだわけだ。

 だからと言って、「あ~良かった」の一言で済ませるべき話でもない。戦争は、こうした偶発的な出来事から始まってしまうことがあるし、急激な緊張激化を体験した軍隊は、有事への備えに前のめりになってしまうこともある。たとえば韓国軍の金正恩氏に対する「斬首作戦」も、そのひとつに数えられるかもしれない。

 この作戦構想が持ち上がるきっかけは、昨年8月の朝鮮半島の軍事危機である。そしてこれ自体が、意図せざるエスカレーションから生まれた出来事だった。発端は、DMZ内で韓国軍の20代の下士官2人が地雷を踏み爆発。足を切断するなどの重傷を負った事件だった。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士...北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

 地雷が、北朝鮮側により仕掛けられたものであるのは明らかだった。北朝鮮の朝鮮人民軍は同年4月から、DMZで不審な動きを見せていた。軍事境界線の西部から東部までにわたり、5人~20人単位で近接偵察と何らかの作業を繰り返していたのだ。

 DMZでは近年、朝鮮人民軍が徒歩で南側に入り、亡命するなどの出来事が相次いでいる。それにまったく気付かない韓国軍の警備の欠陥が指摘されていた一方、北朝鮮側の士気の緩みにも深刻なものがうかがえる。

 ともかく、北朝鮮側は韓国軍にワナを仕掛けたというより、自軍兵士の脱走防止のために地雷を仕掛けていた可能性があるということだ。ところが、それに韓国軍兵士が引っかかってしまったことで、事態は急速に危機の様相を深めてしまう。

 韓国軍は、北朝鮮の地雷が爆発し、兵士らの身体が吹き飛ばされる瞬間の動画を公開している。仲間が傷つけられる場面を見た将兵の中には、強い復讐心を抱く者も少なくないだろう。さらに、韓国軍は報復措置として、軍事境界線付近での拡声器による心理戦「対北朝鮮拡声器放送」を11年ぶりに再開。北朝鮮がこれに猛反発したことにより、報復の連鎖が戦争につながる可能性さえ生じた。

 結局、北朝鮮の金正恩氏が韓国との「チキンレース」に敗れる形で事態は収束するが、この出来事はその後の情勢展開の伏線になった観もある。

(参考記事:韓国との「チキンレース」に敗れた金正恩氏が国内「殺りく」に走る可能性

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアの制裁逃れ対策強化を、米財務長官が欧州の銀行

ビジネス

中国の若年失業率、4月は14.7%に低下

ワールド

タイ新財務相、中銀との緊張緩和のチャンス 元財務相

ワールド

豪政府のガス開発戦略、業界団体が歓迎 国内供給不足
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中