最新記事

新素材

「光学迷彩」も実現できる? レーダーから見えなくなる新素材

アイオワ州立大学の研究チームが「メタスキン」を発表

2016年3月29日(火)16時00分
山路達也

メタスキン 直径5mmほどのリング状の共振器がマイクロ波を捉え周波数を変化させる  Credit: Iowa State University

 SFやファンタジーで定番のアイテム「透明マント」(最近だと「光学迷彩」といった方が通りがよいかもしれない)は、世界各地の機関で大まじめに研究が進められている。

 透明マントを実現するための方法はいくつかあり、1つは映像を投影するというもの。例えば、電気通信大学の稲見昌彦教授の透明マントでは、ビデオカメラで撮影した背景をプロジェクターによってマントに投影し、マントの装着者がまるで透明になったかのような効果を実現している。

 もう1つの代表的なアプローチが「メタマテリアル」を使う方法だ。メタマテリアルというのは、電磁波に対して自然界にはない振る舞いをする人工物質の総称である。メタマテリアルの内部には光の波長よりも小さな構造が無数に配置されており、それによって光の屈折方向を変更するといったことが可能になる。

 私たちの目は、あるモノが光を遮ったり、光を反射したりといった作用をとらえて、モノを「見る」。メタマテリアルによって、光がモノを迂回すると、そのモノは私たちには見えなくなるわけだ。

 2006年に、インペリアル・カレッジ・ロンドンのジョン・ペンドリー教授が、メタマテリアルを使った透明マントの理論を発表して以来、この分野の研究に火が点いた。米国防高等研究計画局(DARPA)でも、メタマテリアルで兵士の透明化に取り組んでいるらしい。レーダーや電子レンジなどで使われるマイクロ波などについていえば、メタマテリアルはかなり実用に近づいている。

 2016年3月に、アイオワ州立大学の研究チームが発表したのは、柔軟で伸縮性のある「メタスキン」という素材だ。このメタスキンは、シリコンシート層の内部に直径5mmほどのリング状の共振器が並んだ構造をしている。このリングがマイクロ波を捉えるのだ。メタスキンを伸び縮みさせると、対応する周波数を変化させられる。

 従来のステルス技術と異なり、メタスキンで覆われた物体はあらゆる角度からのレーダー探査に対して対象の物体を「見えづらく」できる。8〜10GHzのレーダー波の場合、75%の反射を抑えることができたという。

 研究チームの当面の目標は軍用機へのステルス技術だが、将来的な目標はやはり可視光で対象の物体を見えなくする「透明マント」だ。可視光はマイクロ波に比べて、波長が短いため、はるかに微細な構造を持ったメタマテリアルが必要になる。

 ちなみに、メタマテリアルの応用範囲は、ステルス技術や透明マントだけではない。電磁波の干渉を抑えた超高感度アンテナ、従来よりもはるかに屈折率が高く分子や原子を直接観察できる光学顕微鏡などの実現が期待されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロッキード、独ラインメタルと協力拡大 ミサイル製造

ビジネス

ドイツの銀行がペイパル口座振替一時停止、計100億

ワールド

脱炭素の銀行連合、組織構造を大幅見直しへ 日米欧大

ワールド

焦点:米「国家資本主義」の足音に身構える投資家、利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中