最新記事

米大統領選

トランプ外交のアナクロなアジア観

日韓との同盟は不公平な取引だ──暴言王の過激で怪しい主張が導く対アジア関係の不安定な未来は回避できるか

2016年3月22日(火)16時00分
アンキット・パンダ

同盟不要論? トランプは「不公平」な日米安保条約の再交渉も考えているという Photo by Scott Olson/Getty Images

 ドナルド・トランプの外交政策に対する考えとは、いかなるものか──。米大統領選の共和党候補指名レースで首位を独走する人物である以上、これは真剣に検証してみるべき問いだ。

 幸いにも、米メディアには2カ月ほど前から、トランプの外交面での主張を読み解く記事がいくつか登場している。

 ブルッキングズ研究所国際秩序・戦略計画責任者トーマス・ライトは、政治ニュースサイトのポリティコに寄せた記事で、トランプの世界観は首尾一貫していると指摘した。

 その事実が示すのは、これまでの過激発言は建前ではないということ。発言は深い信念に基づくものであり、アメリカは世界において不当な扱いを受けていると、トランプは本気で考えている。

【参考記事】トランプの「アジア外交」絡みの暴言は無視できない

 ブルームバーグのコラムニスト、ジョシュ・ロギンは陣営顧問の顔触れや、外交政策の方向性を決める基本的信条という視点から「トランプ・ドクトリン」の実態を語っている。一方、タフツ大学のダニエル・ドレズナー教授(国際政治学)はワシントン・ポスト紙の記事で、実はトランプの主張こそが現実主義的外交姿勢の究極形ではないかと示唆した。

 トランプの外交政策観の恐るべき問題点については、語っても語り足りない。とはいえここで注目したいのは、彼のアジアに対する姿勢だ。

【参考記事】米軍の南シナ海の哨戒活動は、なぜこのタイミングで始まったのか

 オバマ政権は、安全保障や外交の軸足をアジアに移すリバランス(再均衡)政策を掲げたものの、停滞気味だとの批判がある。だが「トランプ大統領」が誕生すれば、アジアとの関係強化は停滞するどころではない。東アジアを半世紀以上にわたって支えてきた対米同盟は終わりを迎え、日本や韓国、フィリピンは自力での防衛を迫られることになりかねない。

 日本に関して言えば、トランプは日米同盟の在り方を嫌っている。日米安全保障条約は不公平な内容であり、本当の同盟ではないと考えているからだ。

 確かに片務的かもしれないが、日米同盟は最初からそういう形でつくられている。それでもトランプは、アメリカには日本を守る義務があるのに、日本は同じ義務を課されていないと憤る。根っからのビジネスマンである彼にしてみれば、日米同盟は「悪い取引」なのだ。

日本の経済的繁栄は過去の話なのに

 恐ろしいのは、トランプが本気でそう信じていること。そしてこの数十年、信念が少しもぶれていないことだ。

 ブルッキングズのライトが指摘するように、アメリカで日本企業による買収が相次いでいた87年、トランプは公開書簡で訴えた。「日本をはじめとする国々にツケを払わせて、アメリカの巨額の財政赤字に終止符を打つ」べきだ、と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中