最新記事

書籍

こんまりの魔法に見る「生と死」

2016年2月1日(月)15時01分
ローラ・ミラー(コラムニスト)

 30代の近藤は自分の言葉の深い意味に気付いていないかもしれない。でも表紙カバーをデザインした人は気付いていたらしい。そう、この本は80年代風の自己啓発本ではない。むしろ「同情」や「哀悼」のイメージを表現するグリーティングカードだ。ただしここでは悲しむ人と慰める人が同じで、喪失はまだ訪れていない。

 近藤の本は人間の死すべき運命を、間接的にではあるが、執拗に言い立てる。やがて故人となるのは読者。「死」こそ最大の「人生の魔法」だ。

具体的な方法は役に立つ

 こう感じるのは私だけかもしれない。アデルの大ヒット曲「Hello」のミュージックビデオの冒頭、荒れ果てた家のドアを開ける場面を見て、とっさに亡くなった親の家を整理するのだろうと思い込むような人間だから。所有する物が不必要であることを強調する行動があるとしたら、まさにこれだ。

 物にせつない思いを抱くことがあるという点で、おそらく近藤は正しい。だが理由が同じとは限らない。近藤は物に感情があるという信念を持っており、せつなさはそこからきている。彼女は自分の持ち物に話し掛け、感謝したりする。例えば続編では、ブラジャーについて「出している空気感とプライドが別格」と述べている。

 やる気満々の片づけ志願者への近藤の処方箋は極めて感傷的で、同時に厳しい。物の運命を決める前に、一つ残らず手に取りなさい。そして心がときめくかどうかを自分に問い掛ける。もし答えがノーなら、特大サイズのゴミ袋へ!

 近藤はいつも「ときめくかどうか」を判断基準にしているが、『人生がときめく片づけの魔法』は読んでときめく本ではなかった。彼女は「三人きょうだいの真ん中」だったため、親にあまりかまってもらえず、「家にいるとき一人で過ごすことがほとんど」だった。だから、5歳の頃から主婦雑誌を愛読していたという。

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい

 学校に入ってもあまり友達ができなかったが、教室の整理整頓を楽しんだ。「休み時間はずっと一人で片づけをしていたわけですから(略)明るい子どもとはいえないでしょう」

 この本の終盤では、自分はあまり他人を信用できないたちだと告白しており、「無条件に愛されているとか感謝する感情を、親や友人よりも先に教えてくれたのが、モノたちであり、おうちでした」と書いている。なんて悲しい文章だろう。

 続編はもっとかわいらしい感じで、「こんまりメソッド」の具体的な片づけ方をいろいろ紹介している。役立つことばかりで、特に衣類の畳み方が素晴らしい。私はこの畳み方を尊敬し、真剣にまねしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBは利下げ余地ある、中立金利から0.5─1.0

ビジネス

訂正-再送-米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中