最新記事

北朝鮮

北の核実験は「米国のせいだ」とロシアが主張する理由

今回こそは中国もロシアも制裁賛成という印象は誤り、ロシア国営通信は「対話に応じてやらないからだ」と北を擁護する

2016年1月18日(月)15時21分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

制裁強化には反対! 米国との対決姿勢を強めるロシアのプーチン政権は、金正恩(キム・ジョンウン)政権が倒れ、ロシアと国境を接する新たな親米国家が誕生するのを恐れている Maxim Zmeyev-REUTERS

 4回目の核実験を強行した北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議に、時間がかかっている。6日に核実験が行われた当初、これまで北朝鮮に甘かった中国も「今度こそは本気で怒っている」とするニュースが報じられ、国連安保理がすぐにも過去最強の制裁決議を下すかのような空気がただよった。

 しかし今回も、中国は強すぎる制裁には消極的なようだ。

 一方、安保理常任理事国のうち、北朝鮮のもうひとつの友好国であるロシアは、より分かりやすく制裁強化への「反対」の意を明らかにしている。

 ロシア国立の最高学術機関、科学アカデミーのアジア・朝鮮半島の専門家たちが、相次いで制裁強化への懸念を表明。これを、プーチン政権の強い統制下にあるロシア国営通信スプートニクが報じているのだ。

 その論調はざっくり言って、「北朝鮮が核開発を行うのは、米国が対話に応じてやらないからだ」というものだ。

(参考記事:ロシアの専門家ら、対北制裁の強化に懸念表明...政府の立場を代弁か

 なかでも東洋学研究所朝鮮研究室のアレクサンドル・ヴォロンツォフ室長は、北朝鮮に核開発をやめさせるためには、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に移行させなければならないと述べている。これは、北朝鮮の主張そのものだ。

 ロシアからこうした声が出てくるのは、決して珍しいことではない。科学アカデミーの専門家たちとスプートニクは、折に触れて北朝鮮擁護の論陣を張ってきた。背景にあるのは言うまでもなく、ウクライナ紛争である。

 米国との対決姿勢を強めるプーチン政権は、金正恩政権が倒れ、ロシアと国境を接する新たな親米国家が誕生するのを嫌っているのだ。

(参考記事:プーチン氏の超強硬姿勢、拉致問題など北朝鮮情勢に影響必至

 では、中国はどうか。基本的には、ロシアと同じ立場だろう。

 核実験後、米軍はB-52戦略爆撃機を朝鮮半島上空に飛ばし、北朝鮮を威嚇したが、同じことは南沙諸島の空域で中国に対しても行われている。また、日本の防衛費は中国を意識し、過去最大の5兆円超にふくらんでいる。

 このような状況下で、日米韓と中露の利害が容易に一致すると考えるほうに無理があるのだ。むしろ、北朝鮮はこうした状況に乗じていると考えるべきだろう。

 それにしても不思議なのは、新聞やテレビのニュースを見ていても、こうした関係国間の利害のズレがほとんど指摘されていないことだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

S&P中国製造業PMI、7月は49.5に低下 輸出

ビジネス

丸紅、25年4─6月期は8.3%最終増益 食品マー

ビジネス

マクロスコープ:ディープシーク衝撃から半年、専門家

ビジネス

マクロスコープ:ディープシーク衝撃から半年、専門家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中