最新記事

中国軍改革、なぜ今なのか――南沙諸島もこのタイミング

2016年1月4日(月)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 それはすでに逮捕された元中央軍事委員会副主席だった徐才厚(牢獄で病死)や郭伯雄などの江沢民一派の残存勢力(腐敗をしたがる既得権益層)が不満を抱いていたからで、今では腐敗分子はことごとく逮捕したので、抵抗勢力もなくなり、ようやく大規模改革に踏み切れたというわけなのである。

 だから、これまでは4総部の中の総政治部の下に置かれていた軍関係の紀律検査委員会を、直接、中央軍事委員会の管轄下に置き、レベルを引き上げることができたのである。

 なんと言っても総后勤部(補給や輸送)や総装備部(兵器調達や開発)などは、莫大な不動産資源を持っており、腐敗の温床となっていた。これらを上から見張る仕組みを作ったわけだ。

南沙諸島のファイアリー・クロス礁における試験飛行のタイミングとの関係

 1月2日、中国が埋め立てを進めていた南シナ海の南沙諸島のファイアリー・クロス礁で、中国の民間機が造成された滑走路を用いて飛行したことが判明した。この滑走路はファイアリー・クロス礁を埋め立てて造られた飛行場に作られたもので、ベトナム外務省の報道官は、「主権の侵害だ」と抗議する声明を発表した。

 中国外務省の報道官は、ファイアリー・クロス礁に新しい飛行場が完成し、民間機の試験飛行を行ったと認めた上で、「ベトナムの不当な非難は受け入れられない」「自国の領土内で、この飛行場が正常に機能するか否かを確認するため試験的に飛行しただけだ」などと反発する声明を出した。

 なぜこのタイミングで試験飛行をしたのかというと、それはまさに1月2日の本コラム「中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化」で書いたように、ロケット軍などの創設大会が開催された12月31日に、国防部の楊宇軍報道官が中国初の国産空母を遼寧省大連で建造していると発表したことと同じ理由だ。

 軍の大規模改革は、主としてアメリカに見せるためであり、したがって本来なら秘密にしておくべき空母の建造も、あえて公にしたし、大規模改革を実行すると何が起きるかを、「南沙諸島のファイアリー・クロス礁における試験飛行」をアピールすることによって、アメリカに見せようとしているのである。

 これら一連の行動により、中国が狙っているのは「アメリカに対する防御力(あるいは戦闘力)の誇示」であることが見えてくる。

 中国には戦争をするつもりはないが、しかし「一帯一路」の完遂を「邪魔させない」という意思表示でもあるとみなすことができる。

 軍事のあらゆる側面における近代化を促進し、2020年までには完遂させる戦略だ。

 2020年は2021年が中国共産党建党100周年記念であるための、区切りの年で、習近平国家主席は2022年にそのポストを次期政権に譲ることになっている。自分の政権内に、何としても軍の近代化に向けた改革を完遂しようとしている。この方針は変わらないだろう。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

半導体への関税率、EUに「劣後しないこと」を今回の

ワールド

米政権、ハーバード大の特許権没収も 義務違反と主張

ビジネス

中国CPI、7月は前年比横ばい PPI予想より大幅

ワールド

米ロ首脳、15日にアラスカで会談 ウクライナ戦争終
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段の前に立つ女性が取った「驚きの行動」にSNSでは称賛の嵐
  • 3
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中印のジェネリック潰し
  • 4
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 5
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    60代、70代でも性欲は衰えない!高齢者の性行為が長…
  • 9
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 10
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 8
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 10
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中