最新記事

中東

空爆だけではISISはつぶせない

地域の優れた地上部隊と手を組まなくては、いくら有志連合が空爆を拡大しても効果が小さい

2015年12月16日(水)17時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

不十分? シリア領内のISIS空爆にはイギリスも参加を決めたが Russell Cheyne-REUTERS

 英下院がテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)への空爆をシリア領内に拡大することを承認して数時間後、英空軍のトーネード戦闘機4機がキプロスの基地から発進し、シリア東部の油田6カ所に激しい空爆を行った。

 今後も英空軍はシリア領内に空爆を続ける。アメリカやフランスなども空爆を行う。しかしこの戦いの中で、空爆はどれだけの効果を持っているのか。

 軍事史家は、空軍力だけでは戦争に勝てないと論じ続けてきた。兵器が大幅に進歩したことで、この主張はやや勢いを失ったが、完全に否定されたわけではない。実際ISISに対して戦術的に大きな勝利を収めているのは、米軍などの空爆がアラブ人やクルド人の地上部隊の攻撃と協調して行われたときだ。

 この数十年に戦闘員は、空爆に対抗する手段を数多く編み出した。例えば隠れる(塹壕などに)。カムフラージュを施す(戦闘機の操縦士にも、ドローンの操縦者にも気付かれない)。あるいは散り散りになる(爆弾が狙いどおり着弾しても被害は最小限になる)。

 だが空軍力と地上部隊は、互いに攻撃の効果を高め合うことができる。たいていの場合、方法は2つある。1つは空爆を行って敵を隠れさせ、隠れたところを地上部隊が攻撃する。もう1つは地上部隊が敵を1カ所に集め、そこを空爆する。

 後者の典型例は昨年秋、シリアとトルコの国境にあるコバニの町にISISの戦士が集まったときに取られた作戦だ。コバニに戦略的な価値はほとんどなかったが、ISIS戦士が集まったことで格好の標的となった。

 バラク・オバマ米大統領は、この地域への激しい空爆を承認した。空爆で死亡したイスラム過激派は約2500人。クルド人民兵組織のペシュメルガも巧みに戦い、町の支配を取り戻した。ISISとの戦いでの、空と陸の協力関係の始まりだった。

敵の士気を高める危険も

 同様の戦術は01~02年、アフガニスタン戦争の初期にも登場した。9・11同時多発テロへの反撃として、米空軍は国際テロ組織アルカイダと、アフガニスタンを実効支配していたタリバンの拠点を激しく空爆したが、彼らは身を隠す方法をすぐに学んだ。CIA(米中央情報局)と米軍の特殊部隊が地元反乱勢力の地上部隊と協力し、正確な空爆を行ったことで道が開けた。

 アフガニスタンでの戦闘では、誘導爆弾を搭載したドローンが初めて大量に使われた。その結果からドナルド・ラムズフェルド米国防長官(当時)は、ごくわずかな地上軍兵士とハイテク兵器によって、ほぼ全面的な勝利を収められる「軍事における革命」を宣言した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中