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世界を滅ぼすドイツ帝国?いや、今こそ日独同盟の勧め

2015年11月12日(木)16時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

 1922年にドイツは欧米諸国を見限り、共産革命で爪はじきのソ連と手を握る芸当を見せた。ただこれは第一次大戦後、敗戦で窮地に陥ったドイツがフランスに対抗して手を結んだ緊急避難にすぎない。ドイツが欧州で独り勝ちの経済を持つ今は、そんな必要はない。近年も徴兵制を事実上廃止したことが示すように、今のドイツの識者、世論は軍隊の域外派遣にすら後ろ向きで、対米同盟を捨てて自主防衛に移るような冒険は論外だ。

 日本にはドイツに対して、第二次大戦を共に戦ったという思い入れも見られる。ドイツ人も、「次回はもっとうまくやろう」などと冗談で言ってくることがあるが、大多数のドイツ人は日本を異質と見ている。ドイツ人は個人の権利を重視するヨーロッパ人、日本人はろくに休暇も取らず働きづめ、集団主義で「個」がない、というわけだ。

 しかし、中ロが復讐主義的動きを見せ、新興国経済は中だるみ、アメリカはこれから大統領選というなかで、世界のGDPの3、4位、最も堅実な工業基盤を持つ日独は、アメリカを東西で支え、言うべきことは言う重しとならねばならない。民主主義、言論の自由、高水準の社会福祉、自由貿易など、近代の豊かで自由な社会を支えてきた原則が踏みにじられないように、踏ん張るべきときだろう。

 それは日独にとって、国連安全保障理事会常任理事国の席よりよほど現実性・実効性のある、今ここにある課題なのだ。

[2015年11月17日号掲載]

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