最新記事

テロ組織

『野蛮のマネジメント』が物語るISIS流支配の実態と限界

残虐行為を繰り返し混乱に乗じて勢力を拡大、だがエスカレートし過ぎれば自滅する可能性も

2015年3月20日(金)12時14分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

狡猾 米軍による空爆も勢力拡大に利用するISISの指導者バグダディ Social Media Website via Reuters

 テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)幹部の世界観を理解するには、ある指南書を読むことから始めるといい。『野蛮のマネジメント』という挑発的なタイトルの1冊だ。

 問題の指南書はアブ・バクル・ナジと名乗る人物が04年にインターネット上に投稿したもので、ISISの恐ろしい戦略について簡潔なアラビア語で解説している(英語など数カ国語に翻訳されている)。その戦略とは次のようなものだ。

 イスラム世界全域で残虐行為を繰り返して住民を分裂させ、国家が権力を維持できないことを見せつける。それを繰り返して「野蛮な地域」をつくり出す。兵士や当局者が逃げ出した後の真空地帯にISISの戦闘員を送り込み、秩序と治安とイスラム法の極端な解釈に基づく国家を建設する......。90年代後半のアフガニスタンでタリバンが台頭した当時と似ているが、ISISの場合は自ら真空地帯をつくり出そうとしている。

 残虐行為が横行する地域をつくり出したら、今度は食料や医薬品の配給、国境警備、治安維持、イスラム法の厳格な適用などによって管理する。殺すだけ殺しておいて生かした者に恩を着せる、おぞましい戦略だ。

 こんな戦略が通用するのは、内戦で疲弊したり混乱に陥ったりしている地域だけ。だからこそ、ISISの時代には破綻国家の問題がはるかに重要性を帯びてくる。ISISがシリアとイラクで勢力を拡大し、リビアの一部でも勢力を増しているのは、これらの国が国内の治安維持機能を大幅に喪失しているからだ。

挑発があだになる恐れも

 従ってアジアにおいて最もISISの脅威が差し迫っているのは、中央政府の支配が弱い地域──フィリピンのミンダナオ島やアフガニスタンとパキスタンの一部などだろう。報道によれば、ISISはミンダナオ島でイラクやシリアに送り込む戦闘員を集め、現地のテロネットワーク構築も進めているという。

 一方インドネシアではISISの戦闘に参加した約200人が帰国したとの報道もある。こうした帰国組がテロ活動を開始すれば混乱は避けられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中