最新記事

テロ組織

『野蛮のマネジメント』が物語るISIS流支配の実態と限界

2015年3月20日(金)12時14分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

 アルカイダの場合はアメリカを攻撃することしか頭にないようだったが、ISISは逆にアメリカを挑発して自分たちを攻撃させ、戦闘員の新規獲得に利用しようという思惑らしい。「国家」建設の野心を公言してはばからない組織なら、現実的な一面があるはずではないか。それがなぜ世界一の超大国と戦うのか。相手がその気になれば継続的な空爆によって壊滅に追い込まれる恐れがあるというのに。答えはやはり『野蛮のマネジメント』の中にある。

 斬首などのショッキングな暴力は軍事力による報復を招き、その結果、現地住民をさらに分裂させ、特に欧米で疎外され孤立したイスラム教徒にISISへの参加を促す。これに巧妙なソーシャルメディア戦略を組み合わせて、不満を抱くイスラム教徒の若者の中から大勢の戦闘員を補充してきた。

 しかしすべてが計画的というわけではない。殺害やレイプや虐待の様子から受ける組織的な印象とは裏腹に、ISISはまとまりに欠ける。かつてのアルカイダと同様、派手にやり過ぎて、世界の大国をISIS打倒で結束させる可能性がある。

 01年9月11日の米同時多発テロを境にしてアルカイダの衰退が始まった、と嘆く声もアルカイダ内部にはある。あれ以来、潜伏生活が続き、目的遂行能力を著しく制限される羽目になったからだ。

 それでもISISはアメリカに対する挑発をやめそうにない。アメリカ本土でテロを起こせば、ISISの拠点に対する空爆ははるかに激しさを増すはずだ。

 それでなくてもイラクのシーア派民兵組織とイラン革命防衛隊と米空軍による攻撃でISISは打撃を受けている。結局、野蛮などマネジメントできはしないのだ。

[2015年3月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ

ワールド

米国防長官、「中国の脅威」警告 アジア同盟国に国防

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ

ビジネス

アングル:中国のロボタクシー企業、こぞって中東に進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 9
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 10
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中