最新記事

ヨーロッパ

法王に「年寄り」と批判されても欧州の若返りは可能だ

移民の急増は難題でもありチャンスでもある。かつての勢いを取り戻すため働き盛りの世代が必要だ

2014年12月18日(木)16時34分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

戒め ヨーロッパに対し辛辣な言葉を並べる法王 Christian Hartmann-Reuters

 EUが12年に作成した「キャベツ・メモ」と呼ばれる文書には、2万6911語にわたって欧州でのキャベツの販売に関するあらゆる想定シナリオが記されている。無駄な書類の最たる例として引き合いに出されることの多いこの文書は、EUが結成時に描いた大局を見失っている証拠だ。

 EU結成の目的は、各国が共に成長・繁栄し、集団による安全保障体制を確立することだった。長ったらしい「メモ」を作成することではない。

 ローマ法王(教皇)フランシスコはこのメモの存在を知らないだろうが、先月下旬の欧州議会での演説で、くしくもこう指摘した。「かつてヨーロッパを鼓舞した偉大な思想は求心力を失い、官僚主義的な細かな問題に取って代わられている」

 厳粛で時にやや熱を帯びた演説の中で法王は、欧州が「老いてやつれた人」や「もはや創造力や活気を失ったおばあさん」のように見えるとも語った。

 さらに、変化し続ける世界の中で欧州は「主人公ではなくなってきている」ようだとも発言。各国政府の移民問題への対処はおろそかだと批判し、危険なボートでアフリカから渡って来る移民の急増で地中海が「巨大な墓場」になりつつあると嘆いた。

 法王の苦言は辛辣過ぎたかもしれない。だが一方で、ヨーロッパがかつての勢いを取り戻す必要があることも事実だ。

 欧州が08〜09年の金融危機やその後の債務危機からの回復に苦しんでいるのは確かだし、起業家精神を削ぐ官僚主義的な規制も依然として問題だ。それでも、毎年何万人もが命を危険にさらしてでも地中海を渡ろうとし、アジアの活気あふれる新興市場からも多くの人々がチャンスを求めて欧州に向かっている。

 例えば中国。裕福な中国人の3人に2人がより良い大気環境や学校教育、チャンスを求めて欧州への移住を計画している(裕福な彼らは危険なボートではなく、ルフトハンザ航空やエールフランスで飛んでくるが)。

 そしてもちろん、アフリカや中東からやって来る貧しい移民もいる。彼らは大きな希望を胸にヨーロッパ大陸を目指すが、立ちはだかるのは地中海だ。密入国斡旋業者に言われるままに危険なボートに乗り込み、転覆事故に遭う人も多い。法王が地中海を「巨大な墓場」と称した理由はここにある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中