最新記事

新興国

大統領選で露呈したブラジルの深過ぎる溝

景気低迷の原因は経済の構造的欠陥にある
大衆迎合的な政策では傷口を広げるだけ

2014年11月19日(水)14時45分
アンドレス・ベラスコ(元チリ財務相)

今回は貧困層から根強く支持されるルセフが僅差で勝利を手にしたが Ueslei Marcelino-Reuters

 今から40年前、ブラジルの経済学者エドマール・バシャは自国を「ベリンディア」と名付けた。繁栄し近代的なベルギーと貧しく後進的なインドが混在する国という意味だ。

 現職のルセフ大統領が再選した先月の選挙はそれを象徴している、という見方が識者の間では主流だ。低所得層の多い北東部で圧勝したルセフだが、全体では僅差の勝利にとどまった。ブラジルの経済活動の70%を占める富裕な南部で野党・ブラジル社会民主党(PSDB)のネベス党首の牙城は崩せなかった。

 しかし、今回の選挙の意味はそれだけにとどまらない。40年前、繁栄する近代的な「ベルギー」はブラジルのごく一部だった。今回その「ベルギー」を支持基盤とするネベスが48%の票を獲得したことは、拡大し影響力を増した中間層が変化を求めている証拠にほかならない。

 とはいえルセフと与党・労働党に対する貧困層の支持は根強い。ルセフ政権1期目の成長率は平均1・5%。厳密には景気後退だが、雇用はそれほど減少していないため、多くの家庭にはまだ実感がない。
コモディティ(1次産品)価格の長期にわたる上昇傾向も、ルセフの追い風となった。国庫が潤ったことで、貧困層向け現金給付プログラムが拡充され、多くの家庭が貧困から脱出した。

 この手のばらまき戦略はブラジルに限らず、アルゼンチンやボリビア、エクアドル、ベネズエラでもポピュリストがよく使う手だ。こうした国々との類似点は、ほかにもある。

 コモディティブームが去りかけている今、各国は成長維持と雇用創出のために経済の牽引役を生み出す必要性に迫られている。コモディティ市場からのタナボタが望めない以上、新たなモノやサービスを生み出せる新部門を開発するしかない。

 これはブラジルにとって、特に難題となる。ブラジルは経済の構造的欠陥に対して、是正措置をほとんど取っていない。政府歳入は南米最大規模(GDPの3割余りに相当)なのに貯蓄も投資も不十分で、さまざまな問題を生んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレなおリスク、金利据え置き望ましい=米アトラ

ビジネス

トヨタ、米に今後5年で最大100億ドル追加投資へ

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中