最新記事

新興国

大統領選で露呈したブラジルの深過ぎる溝

2014年11月19日(水)14時45分
アンドレス・ベラスコ(元チリ財務相)

構造改革は待ったなし

 ミクロ的には、公共投資の不足がインフラ整備の遅れと輸出コスト高騰を招いている。教育への投資も不十分だ。チリと同じく就学率は急上昇しているが、貧しい子供に質の高い教育を受けさせるには至っていない。OECD(経済協力開発機構)の国際学習到達度調査(PISA)でブラジルはメキシコやチリを下回り、最下位に近かった。

 マクロ的には、公共貯蓄が不足すると国レベルで貯蓄が不足する。外国投資を利用できる間は多額の対外借り入れによって好況を実現するが、期間は短く経常赤字も拡大する。外国投資が枯渇すれば、国内投資が低迷して成長は鈍化する。

 こうした欠陥に対し、具体的な対応策を欠くルセフ。勝利宣言では国民に結束と対話を呼び掛け、成長を促すべく「早急に手を打つ」と誓うにとどめた。

 労働党は、産業政策の手法を誤っている。技術革新を促すために国内の主要部門と提携するのはいいが、価格統制や補助金のばらまき、保護主義に走るのはよくない。近年のブラジルは後者の道を歩んでいる。

 ルセフは対策を急ぐべきだ。公的債務残高は対GDP比60%台、通貨は不安定でインフレ率も高い。政府に対する金融市場の反対は厳しいだろう。

 一方ネベスのPSDBは今回の総選挙で議席数を増やし、サンパウロなど主要州の知事選を制した。次回18年の大統領選で勝利するには、ブラジルの貧困層に、彼らこそPSDBの政策の最大の受益者だと納得させなければならない。

 そのときこそ根深い溝は修復され、近代的で有能な社会民主政権が誕生するはずだ。

© Project Syndicate

[2014年11月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利維持でマイナス金利回避の見込み

ワールド

マクロン仏大統領、中国主席と会談 大規模なビジネス

ワールド

米議員、戦争権限決議案提出 「近く」ベネズエラ攻撃

ワールド

EU、リサイクル可能な電池・レアアース廃棄物の輸出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中