最新記事

米外交

イラク支援は「必要最低限」、オバマの冷徹な計算

バグダッドへの軍事顧問派遣で本格介入への懸念が高まるが

2014年7月1日(火)16時11分
ウィリアム・サレタン

マリキの敵 イラクと隣国シリアで勢力拡大していた過激派組織ISISは先週末、「イスラム国家」の樹立を宣言した(シリアの町ラッカで) Reuters

 イラク情勢が風雲急を告げるなか、オバマ米大統領は先週、首都バグダッドに軍事顧問を派遣すると発表した。これに対して本格的な介入につながるとの懸念が高まっているが、オバマはブッシュ前大統領のイラク介入との違いを明確にし、国民の理解を求めた。重要なポイントを押さえておこう。

1)イラク侵攻は誤りだった

オバマは今回の発表をこう締めくくった。「私たちはイラクにおけるアメリカの戦争が残した深い傷痕を痛感している......過去10年で明らかになったのは、外国で行動する際、特に軍事的行動を起こす際には厳しい自己検証が必要だということだ」

 これは新保守主義者(ネオコン)に対するあからさまな反撃だ。ネオコンはブッシュの「勝利」をオバマが無駄にしたと叫んでいるが、オバマに言わせれば、イラクを破壊したのはネオコンであり、自分がその後始末をさせられている。

 国民の間に広がる厭戦ムードに後押しされ、オバマは大胆にブッシュの戦争を批判するようになった。ここで難しいのが、「米兵の死は無駄だった」と受け取られるような発言は避けなければならないこと。発表後の質疑応答でオバマはイラクの国家建設のために「米兵が多大の努力と犠牲を払ったことの意義を立証」したいとも語った。

2)守るのは首都だけ

米軍は「バグダッド周辺」に的を絞り、武装勢力の侵入を防ぐと、オバマは明言した。

 これは費用対効果を考慮した決定だ。ISIS(イラク・シリア・イスラム国、別名ISIL)が制圧した地域の奪還は米軍の仕事ではないと、オバマはクギを刺した。党派対立に明け暮れるイラクの指導層が政治的に歩み寄って初めて、国全体を統治できるという。

3)当事国の自助努力を促す 

「最終的には、これはイラクの人々が解決すべき問題だ」とオバマは言う。支援は行うが、当事国の主体的な努力が最善の結果を生むと力説した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米下院、貧困や気候問題の支出削減法案 民主党反対 

ワールド

米FRB議長がコロナ感染、自宅から仕事継続

ビジネス

グローバル株ファンドに資金流入、米利下げ期待受け=

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中