最新記事

サッカー

ヘディングが子供の脳を壊す?

頭部への衝撃はボクサーのパンチ並み。首の筋肉が弱い子供がヘディングを繰り返すと脳に深刻なダメージを及ぼす恐れもある

2014年4月24日(木)12時46分
ステファン・ファチス

禁止すべき 子供の頭を繰り返しボールにぶつけるのはナンセンス Ty Allison-Stockbyte/Getty Images

 ワシントンで開かれた小学生向けサッカー大会でのこと。私がコーチをしている女子チームの子供たちは、相手チームの5年生の男の子たちがヘディングするのを見て、私のほうを振り返った。私が普段からヘディングを禁じているためだ。

 私がにやりと笑って首を横に振ると、1人の少女が絶妙なタイミングで言った。「だからあの子たち、みんなばかなのよ」

 この年頃の女の子らしい発言だが、ヘディングをめぐる大きな謎を示唆する言葉でもある。日常的にヘディングをしていると、脳が深刻なダメージを受けるのではないかという疑問だ。

 現時点では明確な答えは出ていないが、少なくともこれだけは言える。子供たちの頭を繰り返しボールにぶつけさせるのはナンセンスだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙は今年2月、頭部への度重なる衝撃による慢性外傷性脳症(CTE)を患い、29歳で亡くなったパトリック・グレンジについて報じた。CTEはアメフトやボクシングの選手に多い疾患で、サッカー選手で確認されたのはグレンジが初。彼は大学サッカーやセミプロリーグの選手として活躍したが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)のような症状が進行して12年に死亡した。

「ヘディングと彼の病状の因果関係は明らかでないが、彼がヘディングを繰り返し、この病気を発症した点は注目に値する」と、グレンジの脳を調べたボストン大学の神経病理学者アン・マッキーは言う。

14歳未満は禁止にすべき

 CTEは記憶障害や鬱、認知症、ALSなどの症状を引き起こす。マッキーによれば多くのアメフト選手と同様に、グレンジの脳も前頭葉が損傷していた。前頭葉はまさにヘディングでボールを当てる額の上部に相当する。グレンジの両親によれば、彼は3歳の頃からヘディングをしていたという。

 サッカーの王様ペレはかつて、テレビでヘディングのコツをこう解説した。目を見開き、口を閉じる、頭と肩を後ろに反らせて準備し、ボールに触れる瞬間首の筋肉を固くする......。

 この姿勢を守らないと、狙った方向にボールが飛ばないだけでなく、頭蓋骨の内部で脳が揺れ、大きな負担がかかる。「正しい方法で行えば衝撃は20G以下だが、後頭部や側頭部にボールが当たって頭が強く揺さぶられると40〜50Gの力がかかる」と、ボストン大学のロバート・カントゥ教授は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏とブダペストで会談へ、トランプ氏が電話会

ビジネス

日銀、政策正常化は極めて慎重に プラス金利への反応

ビジネス

ECB、過度な調整不要 インフレ目標近辺なら=オー

ビジネス

中国経済、産業政策から消費拡大策に移行を=IMF高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中