最新記事

治安

中国で「テロの日常化」が始まった?

山西省共産党ビル前の爆破事件は犯人逮捕で解決したかに見えるが

2013年11月19日(火)16時02分
長岡義博(本誌記者)

第1のテロ? 10月末に北京の天安門広場で起きた自動車爆破事件の現場 Reuters

 中国できな臭い黒煙がまた立ち上った。

 北京の天安門前でウイグル族過激派によるとされる自動車突入・爆破事件が起きてからわずか9日後の今月6日、西に約400キロ離れた山西省の省都・太原市で連続爆発事件が発生した。場所は山西省のトップ政治機関である省共産党委員会ビル前だ。

 爆発は早朝の出勤時間帯を狙うかのように、午前7時40分頃から8時頃にかけて連続して7回起きた。爆弾の破片や中に仕込まれた鉄球やクギが周辺に飛び散り1人が死亡、8人が重軽傷を負った。

 北京で開かれた共産党の重要会議「三中全会」を目前にした事件だけに、政治テロとの見方や、前週に続く過激化したウイグル族の犯行との臆測も飛び交った。事件から2日後、中国の公安当局は太原市内に住む41歳の男を逮捕。自宅から爆破装置も見つかり、男は犯行を自供した。一件落着のようにも見えるが、それでも謎は残る。

 天安門前の爆破事件で中国政府は発生直後、事件に関するネット情報を封鎖した。だが、今回はマイクロブログの新浪微博(シンランウェイボー)で規制がかからず、現場で撮られた鉄球などの写真が一気に広まった。地方都市とはいえ、中国の権力の中枢である共産党に直接向けられた敵意を隠そうとしないのはなぜか。

 あくまで個人的事情から地方政府に不満を持つ者の単独犯行ゆえと、中央政府は楽観視しているのかもしれない。11年5月、南部の江西省撫州市にある市関連庁舎前で爆弾3発が爆発。容疑者の男を含む3人が死亡する事件があった。きのこ雲が上がるほど強力な爆薬が使われていたが、男の動機は市による自宅の強制撤去だった。

 今年に入ってからも6月に福建省アモイ市で男が運行中のバスに火を放ち、7月には北京空港で車椅子の男が手製爆弾を爆発させた。いずれも政府の理不尽な対応や警察の暴行が動機だったが、こういったテロの「点」はまだ「線」につながっていないように見える。

 89年の天安門事件以来、中国政府は今や年間18万件ともいわれる暴動やデモを力で封じ込めてきた。ただ今回の一連の事件をきっかけに、地方都市でデモに代わってテロが頻発するようになれば、公安当局が事前の警戒で事件を防ぐことは難しくなる。いわば「テロの日常化」だ。

「点」は「線」につながりかけているのかもしれない。

[2013年11月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中