最新記事

韓国

朴が韓国女性に愛されない理由

「女の味方」はポーズだけ?男女格差の解消に力を入れる見込みは薄く、保守的過ぎる政治に失望の声も

2013年6月3日(月)15時16分
トレバー・バック

期待はずれ 朴が大統領に就任したこと自体が、女性にとって大きな前進だとの見方もあるが Lee Jin-man-Pool-Reuters

 女性が大統領になれば、同国の根深い男女格差も少しはましになるのではないか――2月に朴槿恵(パク・クネ)が韓国初の女性大統領に就任した際、こうした期待が世界で高まった。

 しかし実際には、朴が女性の地位向上を推進する見込みは薄い。「朴にはフェミニスト的な政策が何もない」とワシントン大学韓国学研究所のクラーク・ソレンソン所長は言う。

 韓国は先進国の中でも特に男女格差が大きい。世界経済フォーラムの2012年版世界男女格差報告書では135カ国中108位。女性は男性より賃金が平均で39%少なく、注目される職業への進出度はかなり低い。

「韓国で男性のほうが高賃金なのは兵役義務があるからだと言われている」と済州道で英語教師をしている女性、イ・ジヒョン(39)は言う。「でも女性には妊娠という大仕事がある。育児もしなければならない。兵役義務は男性を優遇する理由にはならない」

 イは男性優位の文化が変わることを望んでいるが、朴にはあまり期待していない。ほとんどの専門家も、朴はフェミニストとは正反対だと考えている。朴に対する政治的支持は、朴自身の業績というより親の七光の部分が大きい。

 父親の故・朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領は人権を弾圧した独裁者だったが、年配の韓国人にとっては高度経済成長の立役者。その娘の大統領就任は、新時代の幕開けではなく朴時代の再来と受け止められている。

「中身は男」という声も

 朴自身も保守的な政策を掲げ、社会問題よりも、もっぱら地政学的安定と経済発展を重視してきた。現代韓国事情に詳しい米バッサー大学のムン・スンスク教授によれば、「朴には積極的に女性のリーダー的役割を果たしたとか、男女平等を奨励して社会的少数派の地位向上につながるような政策を支持したといった実績がない」

 朴は側近にも女性を起用しておらず、閣僚級17人のうち女性の指名も2人だけと少ない。「女性を1人も閣僚に指名しないわけにはいかなかったからだ」とソレンソンは言う。「今は誰が大統領になっても女性をまったく指名しないわけにはいかない。それにしても2人というのは少ない」

 昨秋の選挙運動中は違った。朴は女性の支持を獲得すべく、自分が女性であることを積極的にアピールしていた。託児所の増設などを約束したほか、(自身は独身だが)祖国を気遣う「母」を演じることもしばしばだった。候補者討論会では「朴はワーキングマザーや共働きの親の悩みに敏感だった。女性が何に悩んでいるか、本当に分かっていた」とソレンソンは言う。

 女性が直面している問題に取り組む見込みは薄くても、朴が大統領に選ばれたこと自体が女性にはプラス、という声もある。「韓国が朴を国のトップに選んだこと自体、女性が出世できると認めた証拠」だと米ブルッキングズ研究所非常勤上級研究員の呉悦公丹(オ・ゴンダン)は言う。「朴を見て、自分も大統領になりたいと思う聡明な少女や女子学生が出てくるかもしれない」

 だが多くの若い韓国人女性は朴の保守的な政治と、彼女が独裁者の娘であることを軽蔑している。韓国初の女性大統領の誕生は誇らしくても、それが朴では台無しというわけだ。「朴の中身は保守的な韓国人男性だと思う」とイは言う。「女性のことなんか少しも考えていない」

From GlobalPost.com特約

[2013年5月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中