最新記事

教育

ネット大学「有料化」が苦学生を救う

「名門大学の授業を無料で受けられる」で急成長したオンライン大学の次なる挑戦

2012年11月15日(木)17時13分
ウィル・オレムス

改革者 世界の貧しい人々にも最高の講義を、と話すコラー YouTube

 インターネット環境さえあれば、世界のどこにいても一流大学の授業をオンラインで受講できる。しかも学費はタダ──アメリカを中心に急成長を遂げている公開オンライン大学が、新たなステージに突入しようとしている。

 けん引役は、スタンフォード大学の2人のコンピュータ科学者が今年立ち上げた教育ベンチャー「コーセラ」。スタンフォードだけでなくプリンストン大学やコロンビア大学などで教える世界トップクラスの講師陣による講義を無償で提供するコーセラは、開校後1年足らずで170万人以上の受講者を世界中から集めた。

 ただ受講しても修了証が発行されるだけで自分の大学の単位としては認められないのが、学生にとっては不満が残る点だった。

 そこでコーセラは11月13日、第三者機関と提携し、一部の講座を大学の単位として認定してもらうシステムを、来年早々にも立ち上げると発表。ただし単位を取得したい場合、学生はコーセラに学費を支払う必要がある。
 
 単位認定の審査に当たるのは、大学外での学習の単位互換性を評価する専門機関であるACEクレジット。同機関のお墨付きを得た講座を修了すると、全米の大学およそ2000校で単位として認められる(ただし、コーセラに授業を提供している一流大学は含まれていない)。

かすむリアルの大学との境界線

 設立から1年間、ベンチャーキャピタルからの出資で事業を拡大してきたがまだ利益を上げていなかったコーセラにとって、有料化は大きな転機になる。在籍する大学で学びたい科目が受講できない学生は大歓迎するだろう。通常の大学の高額の学費を支払えない人にも朗報だ。単位を取りたい学生から学費を徴収して利益を上げれば、それを原資に学費を払えない世界の貧しい人々への無料講座を続けていけるからだ。

 コーセラの共同創設者の1人であるスタンフォード大学のダフニー・コラー教授は、声明で次のように語っている。「近年、大学の学費高騰は学生たちに壊滅的な打撃を与えている。多くの学生が学費の捻出に苦しみ、学位取得を断念するケースも少なくない。わが社は大学の単位に認定される可能性がある最高レベルの授業を提供することにより、一定の単位を保有した状態で大学に入学し、予定通りの時期に予定通りの学費で、学位を取得できる学生を増やしたい」

 コーセラは一貫して、オンライン大学は伝統的な高等教育機関を補完する存在であって、それらに取って代わるものではないとの立場を取ってきた。だが学費を徴収し、単位を出すのであれば、新たな疑問にさらされるのは避けられない。オンラインでの授業は本当の意味で、教室で学ぶ従来型の教育の代替になりえるのか、という疑問だ。コーセラの未来はその点にかかっている。

© 2012, Slate

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

米ミネソタで州議員が銃撃受け死亡、容疑者逃走中 知
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中