最新記事

睡眠

早起きは三文の徳、にならない

肥満の原因は「社会的時差ボケ」による不眠にあった

2012年8月24日(金)17時40分
トレバー・バターワース

モルモット 社会生活は体内時計を狂わす大実験に等しい Illustration By Taylor Callery for Newsweek

 目覚まし時計がないと朝起きられない──。そんなあなたは「社会的時差ボケ」かもしれない。これは体内時計の睡眠サイクルと社会生活で要求される睡眠サイクルのズレを指す言葉で、ドイツのミュンヘンにあるルートビヒ・マクシミリアン大学のティル・レネベルク教授(時間生物学)が生みの親だ。

 平日は目覚まし時計に頼って週末に寝だめする生活は、体内時計を西海岸に送って月曜の朝に東海岸に引き寄せるようなもの。その結果、「寝不足と寝過ぎの悪循環に陥り、夜はまったく眠れない人たちがいる」とレネベルクは言う。

 問題はそういう人が増えていることだ。本来なら、ほとんどの人は午前0時から午前1時の間に眠くなり、午前8時から午前9時頃に目が覚める。ところがレネベルクによれば「85%の人が目覚まし時計なしでは起きられない」。その結果、「普通の人の3分の2が1時間以上、16%が2時間、シフト勤務の人はそれよりかなり長時間の社会的時差ボケになる」。

 シフト勤務は特に問題だ。ハーバード大学医学大学院で睡眠を研究しているオーフェ・バクストンはシフト勤務の影響をシミュレーションする初の実験を行った。数週間にわたって睡眠を混乱させたところ、代謝がおかしくなり、血糖値はいずれ糖尿病を引き起こすレベルまで上昇、エネルギー消費量は1年間に6キロ近く太ってもおかしくないレベルまで落ち込んだ。

 社会的時差ボケが、肥満の主な原因の1つかもしれないという証拠は増え続けている。レネベルクらが何万人もの睡眠記録を分析した結果、社会的時差ボケ1時間ごとに肥満度が33%増えることが分かった。睡眠不足は「野菜や果物よりも糖分の多い加工食品を好む一方、運動するエネルギーは減少する」悪循環を生む、とバクストンは言う。

 今年は睡眠研究にとって節目の年になりそうだ。不眠は生理学的変化で生じたものであり、社会生活自体も本来のものに戻すべきものだとの考えが主流になりそうだからだ。「早起きは三文の徳という古いルールは捨てなくてはならない」とレネベルクは言う。体が本来遅く起きるようにできているのに早起きするのは「まったくナンセンス」だ。

 バクストンも同じ意見だ。「先進国では、人々は不自然な大実験のモルモットになっている」と、彼は言う。

[2012年7月18日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ワールド

ノーベル平和賞のマチャド氏、「ベネズエラに賞持ち帰

ワールド

ドイツ経済、低成長続く見通し 財政拡大でも勢い限定

ビジネス

IEA 、来年の石油供給過剰の予測を下方修正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中