最新記事

領土問題

南シナ海の実効支配進める中国の強引

軍事的にはひねりつぶすことも可能だが、中国の「リゾート」にしてしまえばわざわざ犠牲をし払わずに済む

2012年7月25日(水)15時05分
パトリック・ウィン

泥棒中国! 三沙市の発足など、支配の既成事実化を進める中国を非難するベトナム市民 Reuters

 中国は、南シナ海の領有権を確立するために最後の手段に打って出るようだ。と言っても、軍事衝突を起こそうというのではない。クルーズ船を就航させ、軍の前哨基地を設置し、急ごしらえの「市」を設立することで、最終的に領有権をわがものにしようとしているのだ。

 石油資源が豊富なこの海域で、実際に軍事的な衝突が起こる可能性は、以前に比べてかなり少なくなっているようだ。南シナ海のさまざまな海域で、ベトナムやフィリピン、台湾などの国々がそれぞれ強硬に領有権を主張している。一方で、中国はそのすべてが中国のものだと言い張っている。

 紛争を勃発させる代わりに、中国はこの無人島の海域に少しずつ豊富な資金を投入し、中国の存在感を高めようとしてきた。

 まず、今週に入って中国は、ベトナムが大部分の領有権を主張するパラセル(中国名・西沙)諸島に(おそらくは小規模な)軍駐屯地を建設するとの計画を発表した。この前哨基地の目的は、三沙という「市」を防衛すること。先月までは存在もしなかった都市だ。

軍事的衝突は得策ではない

   さらに今週フィリピン・スター紙は、フィリピンが領有権を主張するスプラトリー(中国名・南沙)諸島のスービ礁(中国名・渚碧礁)に、中国が滑走路の建設を予定していると報じた。同紙によれば、この島にはすでに中国によって建造物やレーダーが設置されているという。

 さらに中国人たちは、観光リゾート地としてこの地に攻め込もうともしているらしい。中国国営の新華社通信は、複数の中国当局者たちのコメントを伝えている。西沙はタイのビーチにも引けを取らない美しさであり、この島々にクルーズ船を就航させることを約束する、とのことだ。とはいえ、現状では西沙は何もない無人島だから、中国人観光客は船で宿泊するしかないのだが。

 万が一この海域で衝突が起これば、中国海軍がベトナムやフィリピン海軍を握りつぶすことはまず間違いない。ただ、格下の相手をわざわざ力でねじ伏せるために、人命や武器や国の評判を犠牲にすることが得策と言えるだろうか。

 近頃の動きを見る限り、中国はもう少し賢いやり方を進めているようだ。中国政府は周辺諸国に比べて強大な経済力を盾に、南シナ海の島々で徐々に存在感を確立していくという作戦に満足している。

 このままではフィリピンやベトナムは、非常に好ましくない状況に追い込まれることになりそうだ。中国の部隊が駐留し、中国の建物が並び、中国のリゾートで埋め尽くされた島々を、「中国のものではない」と主張しなければならないのだから。


From GlobalPost.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、カリフォルニア州で販売停止命令 執行は9

ワールド

カナダ、北極圏2カ所に領事館開設へ プレゼンス強化

ワールド

香港トップが習主席と会談、民主派メディア創業者の判

ワールド

今年のシンガポール成長予想、4.1%に上方修正=中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中