最新記事

財政危機

「議員天国」イタリアのあきれた実態

国民には緊縮を説きながら公費で甘い汁。大ナタを振るうならまず議員報酬から

2012年2月10日(金)17時30分
バービー・ラッツァ・ナドー(ローマ)

コストカッター EUでも群を抜くイタリア議員の高給ぶりを暴露したモンティ首相 Max Rossi-Reuters

 イタリアでは昨年11月にベルルスコーニ首相が辞任、モンティ新政権が誕生した。危機に瀕したイタリア経済の舵を取り、2兆ユーロ近くに膨れ上がった政府債務がユーロ圏と単一通貨ユーロの崩壊につながるのを阻止する──。そんな重責を背負っての船出だ。

 モンティ首相は最近、イタリアの国会議員がひた隠しにしてきた秘密を暴いて、彼らの怒りを買っている。EUでも群を抜くイタリア議員の高給ぶりだ。

 政府の諮問委員会が先週までにまとめた報告書によると、イタリアの平均的な議員の月収は諸手当を含めて約1万6000ユーロ(約160万円)と、一部の国民の年収さえも上回る。ヨーロッパで2番目に高いフランスより約2500ユーロ、ドイツと比べると3400ユーロも高い。スペイン(4650ユーロ)の4倍近く、イギリス(6562ユーロ)と比べてもかなり高い。

 イタリアでは議員の副業も法的に認められており、副業収入は議員だからという理由でたいてい非課税だ。一方の国民は、居住用不動産に対する課税の復活からガソリン価格の高騰まで、さまざまな打撃を受け、一層の人員削減と迫り来る労働市場の自由化に怯えている。

 イタリアの肥大化した公共部門の改革は、自らの給与返上を表明したモンティの双肩に懸かっている。イタリアが長いこと低迷し借金漬けになっている一因が公共部門にあるのは明らかだ。まずは当然、議員報酬にメスを入れるべきだろう。

1期で年金は全額支給

 報告書によると、イタリアの議員は国内の交通費も無料なのに、領収書なしで1300ユーロまで交通費の払い戻しが可能。首都ローマに家があっても住宅手当が出る(非課税)。秘書などを独自に雇わなくても人件費が給与に上乗せされる。議員食堂ではTボーン・ステーキやメカジキのグリルが1皿たった数ユーロで味わえ、髪や爪の手入れも格安。性同一性障害の議員専用の化粧室まである。

 議員の家族には公務でなくても警察の護衛が付く。一般市民は何年も働いてわずかな年金しかもらえないのに、議員は1期務めるだけで国の年金が全額支給される。ローマの高級ブティックの多くや携帯電話会社でも議員割引が受けられる。そのほか、しゃれたビーチが無料で使え、映画やオペラのタダ券が手に入るなど特権は数え上げたらきりがない。

 報告書は政府機関のスリム化も視野に入れている。モンティ政権は中央と地方の政府職員と議員の総数を減らす法案の成立も検討する構えだ。人口6000万人に対し、議員は上下両院で1000人近くに上る(アメリカの場合は人口3億1000万人に対し議員は535人)。

 しかしすんなりとはいかないだろう。「議員数を減らす話は何十年も前からある」と、ローマ在住の政治学者、ジェームズ・ウォルストンは言う。「でもそれは、大量に丸焼きにされる七面鳥にクリスマスを祝えと言うようなものだ」

 実際、イタリア議会では当面、給与削減が優先議題になることはなさそうだ。モンティは削減を強制するのではなく、議員自らが給与体系や諸手当を見直すよう求めている。

 一方、議員はブログやツイッターで弁明に必死だ。独裁者ムソリーニの孫娘であるアレッサンドラ・ムソリーニ議員は「私腹を肥やすひと握りの連中のせいで、議員全員がツケを払わされる」とブログに書いた。「議員の月収を1000ユーロに減らしても、今度は500ユーロに減らせと言われるだろう」

 イタリア経済の窮状を思えば、500ユーロでも多過ぎるかもしれない。

[2012年1月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、8月は異常気象で伸び加速 PPIは下落

ビジネス

スペースX、2年後に火星へ初の無人宇宙船打ち上げ=

ビジネス

豪ウエストパック銀、新CEOにミラー氏 富裕層部門

ワールド

米とイラク、連合軍撤退計画で合意 26年末にかけ2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元で7ゴール見られてお得」日本に大敗した中国ファンの本音は...
  • 3
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 4
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単…
  • 5
    ロシア国内の「黒海艦隊」基地を、ウクライナ「水上…
  • 6
    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…
  • 7
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 8
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 9
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 10
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 5
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 6
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 7
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 8
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 9
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 10
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中