最新記事

東南アジア

ビルマの門戸開放に中国の思いは複雑

アメリカと近くなり過ぎるのも困るが、北朝鮮のようなお荷物になられるのはもっと困る

2012年1月13日(金)15時33分
キャスリーン・マクラフリン

腹の探り合い 中国で会談したテイン・セイン大統領(左)と胡錦濤国家主席(2011年5月) David Gray-Reuters

 11月30日からクリントン米国務長官を迎える予定のビルマ(ミャンマー)。この訪問によって、ビルマの唯一の同盟国とも言える中国の立ち位置も変わらざる得ないだろう。

 中国では、ビルマに対するアメリカの影響力が強まることを警戒する声がある。その一方で、より開かれたビルマは中国にとっても望ましいとの認識も広がりつつある。

 中国にとって望ましくないのは、ビルマが第2の北朝鮮になること──中国に頼り切った閉鎖的な孤立国家になることだ。

「孤立したビルマは不安定なビルマだ」と北京大学の国際経済学者、査道炯(チャー・タオチョン)は言う。「ビルマが国際社会に参加して安定すれば、中国の利益になる」

 中国では今、資源の豊かな隣国ビルマとの関係をどう維持するかが盛んに議論されている。ビルマが開放政策に転じ、他の国々との関係構築に乗り出したのは、親分風を吹かす中国に閉口したからだという見方もある。

 過去30年間、ビルマにとって中国は主要な同盟国であり、貿易相手だった。しかし、ビルマが昨年秋の総選挙以来、民主化の動きを進めるなかで、「中国離れ」とも取れる政策が目立つようになった。なかでも衝撃的だったのは、中国の後押しでカチン州にできる予定だった世界最大級の水力発電ダムの建設計画が凍結されたことだ。

 ビルマは中国企業にとっては格好の投資先で、中国資本による大規模な開発事業がめじろ押しだ。そうしたなか、広大な森林を水没させるダム建設に住民らが激しい抗議の声を上げた。

 民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーも反対の意思を表明。テイン・セイン政権もこうした声を無視できなくなった。

 中国側は、ダム計画凍結は大きな問題ではないとしている。人民日報系の環球時報は「欧米のメディアはしばしば(ビルマをめぐる)米中の綱引きを大げさに書き立て過ぎる。彼らはダム計画凍結をビルマが欧米ににじり寄った明確なサインと決め付けている」と主張した。

 北京大学で国際関係論を教える朱鋒(チュー・フォン)は、ビルマの民主化機運が急激に高まることへの懸念があると指摘する。国境地帯の混乱は中国国内に波及しかねないからだ。

 ビルマの民主化に一定のブレーキをかけつつ、自国の経済的権益を確保したい。それが中国の本音のようだ。

[2011年12月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ワールド

香港北部の高層複合アパートで火災、4人死亡 建物内

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中