最新記事

イタリア政治

ベルルスコーニ「裸の王様」の最期

2011年11月10日(木)15時40分
ヤーコポ・バリガッツィ(ミラノ)

政治の麻痺状態の末に

 市場はイタリアの政治的危機の解消を「待っている」と、ポツダム大学(ドイツ)のエネルギー政策研究者ステファノ・カセルタノは主張する。米格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)のイタリアに対する格付けは「Aプラス」のままだが、同社は先頃「イタリアの政治不安が(財政目標達成に向けた)計画の実行を妨げることがあれば、格下げ圧力にさらされる」と警告した。

 イタリアの行く手に待つ巨大な問題の数々は、断固とした政治的・経済的決断なしには解決できない。1つ間違えば、救済の見込みはほぼなくなる。イタリアの名目債務は約1兆8000億ユーロ。5月に起きたギリシャ債務危機を受け、EUが設立に合意した7500億ユーロ規模の支援基金をもってしても、どうにもならない。

 EUが加盟国に対し、債務残高の対GDP比を60%以下とするよう義務付けた場合、イタリアは大なたを振るうことを迫られる。国家の大きな目標を掲げ、実現を目指すのは政治家の役目だ。にもかかわらず、ベルルスコーニも議会もそんな姿勢はかけらも見せていない。

 イタリア政治は麻痺状態だ。フィーニも野党の有力指導者も今のところ首相の座を狙える位置にはいない。対するベルルスコーニは、08年に成立した「現職の大統領、両院議長、首相は刑事訴追の対象にならない」という法律の合憲性をめぐり、憲法裁判所が12月中旬に出す予定の判決を待っている。

 イタリアでは、早ければ来年の春に次の大きな選挙が行われる。ミラノ大学の社会学教授で世論調査を手掛けるレナート・マンハイマーによれば、ベルルスコーニが続投する可能性はあるものの、議会はこれまで以上に与野党が拮抗し、身動きの取れない状態になりそうだ。

 そうした事態がもたらす結末は、一瞬にして都市が火砕流にのみ込まれたポンペイの最後ほどドラマチックではないかもしれない。だが指導者が危機的現状に目を向け、大胆な決断を下し、全面的に責任を取るようにならなければ、イタリア国民の未来はゆっくりとだが確実に葬られていくことになる。

[2010年11月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中