最新記事

中国

釈放されたアイ・ウェイウェイに異変?

80日近く当局に身柄を拘束されていた反体制アーティストと接触した映像作家が語る、不穏な変化と今後への影響

2011年6月27日(月)18時07分
デービッド・ケース

自宅軟禁 約3カ月ぶりに釈放された艾未未だが、移動や通信の自由は認められていない(6月23日) David Gray-Reuters

 北京在住の映像ジャーナリスト、アリソン・クレイマンは数年前から、中国の著名な現代アーティスト、艾未未(アイ・ウェイウェイ)を国内外で密着取材してきた。ドキュメンタリー映画『艾未未:ネバー・ソーリー』を製作するためだ(今秋に完成予定)。

 中国政府への批判を公言してきた艾は、4月11日に当局に身柄を拘束され、連絡が取れなくなっていた。だが、世界が注目するカリスマ芸術家の監禁に国際的な非難が高まり、処遇に困った中国政府は先週、艾を保釈した。

 保釈後、艾はメディアにほとんど発言していないが、本人と電話で言葉を交わしたクレイマンに話を聞いた(ロイターが友人の話として伝えたところによれば、艾は今後1年間、電話やツイッター、国外旅行を禁じられており、北京市内での移動についても当局に居場所を報告しなければならないという)。

         *  *  *  *  *

──艾未未とはどんな話を?

彼が釈放されてから、すぐに話ができた。80日間不通だった彼の電話が突然つながって、普通に話ができるのはシュールな体験だった。

(釈放されて)明らかに嬉しそうだったが、少々疲れているようだった。隣には彼の母親がいて、母に会えて嬉しいと言っていた。その後、家族やスタジオのアシスタントたちと会ったそうだ。美味しい食事を楽しみ、翌日には散髪もした。

 監禁生活については何も語らなかった。いつか語る日が来るかもしれないが、今すぐではないと感じた。

 スタジオの外には大勢の報道陣が押し寄せ、バンが数台止まっている。艾は時々ドアを開けて彼らに声をかけるが、大抵は「ありがとう」と言って、インタビューに応じられないことを詫びるだけだ。

──中国政府から発言を禁じられているとの報道もあるが、そうした制約が彼の芸術や活動にどんな影響を及ぼすと思うか。

 中国政府による公式の命令は旅行の制限だけだ。継続中の捜査のために呼び出される場合があるので、北京を離れる際には許可申請が必要だという。しかし、それだけでも芸術家としての生き方や活動に影響を及ぼすだろう。私は何年間も彼を撮影してきたが、彼の作品はヨーロッパやアメリカ、アジアなど国外で展示されることが多く、彼は展示会の準備のため頻繁に外国を訪れてきた。今後、そうした活動はできないかもしれない。

 創作活動へのそれ以外の制限については、今後の展開を見守るしかない。今のところ、監禁の体験は彼の表現能力に影響を与えているように思う。以前は誇りをもって1日に6〜16時間ツイッターでつぶやいていたが、釈放後は発言していない。それでも、彼にメールを書いた人々が、彼からの返事をツイッターで公開している。「どうも!」といった一言だが。

──今もまだ監禁されているのは?

 艾の友人で、ネット上で活動する市民ジャーナリストの文涛(ウェン・タオ)は、艾と同じ日に逮捕されたままだ。彼の会社の会計士や同僚の1人も身柄を拘束されている。

──温家宝首相は、艾の釈放を訴える動きが活発だったドイツとイギリスを近く訪問する。この訪問予定が釈放への圧力となったと思うか。

 確かにそうだが、他にも多くの要素が絡んだ結果だ。

──かつて中国政府から沈黙するよう言われたり脅された時に、艾はどう対応していたか。

 政府からの脅しには、いつも遊び心のある対応をしていた。例えば、スタジオの外に監視カメラが設置されると、その写真を撮ってツイッターで公開したり。大理石で作られた監視カメラの彫刻も、世界各地のギャラリーで展示されている。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ビジネス

アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額34

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中