最新記事

地震

3.11大震災が東京に残した教訓

多くの帰宅困難者は出たものの、電気もトイレもある今回の経験は「避難訓練」程度のものだった

2011年3月24日(木)14時20分
井口景子(本誌記者)

難民化 大地震のときは「むやみに動かない」が原則 Toru Hanai-Reuters

 東日本大震災で首都圏も震度5前後の強い揺れを経験したが、人的被害は東北や北関東地方ほどではなかった。しかし、胸をなで下ろしている場合ではない。いずれ起きるであろう首都直下地震や東海・東南海・南海地震では、今回以上の揺れや津波に襲われる可能性もある。

 11日に地震が発生したとき、都心は長い周期で揺れる「長周期地震動」に襲われた。そのため高層ビルは高層階ほど激しく揺れ、家具の転倒が相次いだ。建物の全壊は比較的少なかったが、日本建築学会によれば、同時発生が懸念される東海・東南海・南海地震では東京、大阪、名古屋の高層ビルは設計時の想定の1.2〜2倍の長周期地震動に襲われるという。

 しかも東京大学総合防災情報研究センターの鷹野澄教授によれば、首都圏に到達する長周期地震動は北から伝わる場合よりも、東海・東南海・南海地震のように南から伝わるほうが大きくなる傾向がある。今回の地震で建物内部にダメージを受けているリスクもある。「今回持ちこたえたからといって、次も大丈夫と油断するのは禁物だ」と、鷹野は言う。

 揺れの後の行動にも反省点がある。徒歩で自宅を目指す人が数万人に上ったが、大災害で交通が麻痺した場合は「むやみに動かない」が大原則だ。

路上で水に襲われる可能性も

 マグニチュード7.3の首都直下地震のシミュレーションでは、建物の倒壊や道路の寸断、火災、停電のため、歩く距離が10キロを超えると1キロごとに1割が脱落。20キロで全員が脱落し、危険な場所で立ち往生する。緊急車両の通行を妨げ、2次災害に巻き込まれる恐れも高い。

「今回は電気、ガス、水道に加えてトイレまで使えたという意味では『避難訓練』に近かった。本当の危機とは次元が違う」と、工学院大学の村上正浩准教授は言う。

 路上にあふれる帰宅難民に「水」が追い打ちをかける可能性もある。今回は東京湾沿いで液状化現象が起きたが、津波にも警戒が必要だ。関東大震災では相模湾や房総半島に10メートル前後の大津波が到来した。

 入り口が狭い東京湾には高い波が入りにくいが、「海抜ゼロメートル地帯が広がっているので、小規模の津波でも水が河川を逆流して浸水し、水道や下水道を麻痺させる」と、東京大学地震研究所の古村孝志教授は言う。水が逆流するのは大阪湾も同じで、1854年の安政南海地震では市街で多数の死者が出た。

「想定外だった」という言い訳はもう許されない。

■『ニューズウィーク日本版』最新号のカバー特集は「3.11日本の試練」
「想定されていた『フクシマ』の暴走」
フォトエッセー「『忘れてはならない3.11』の記憶」
密着ルポ「被災地で見たトモダチ作戦」
「世界が送る『ガンバレ、ニッポン』」
...など総力を挙げて取材しました
<最新号の目次はこちら

<デジタル版のご購入はこちら
<iPad版、iPhone版のご購入はこちら
<定期購読のお申し込みはこちら
 または書店、駅売店にてお求めください。

[2011年3月30日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、中東情勢を楽観 ユーロは2

ワールド

イラン核施設攻撃「中核部分破壊されず」と米情報機関

ビジネス

FRBバー理事、関税による持続的インフレを警戒 利

ビジネス

米住宅価格指数、4月は前月比‐0.4% 22年8月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 7
    イスラエル・イラン紛争はロシアの影響力凋落の第一…
  • 8
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 9
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 10
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中